随想　空即空（連載107）内村鑑三の不敬事件を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ#

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有即無　無即有　有無即空　空即空　空空空　正空　（清水空雲）

随想　空即空（連載107）内村鑑三の不敬事件を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ#

清水正

　曖昧でありながら思いこみは激しい。意志決定に対して心の底から納得していなくても一度決定するとそれに異様にこだわる。神道かキリスト教の神か、の二者択一に関して鑑三は深く悩んだ訳ではない。署名しなければ殺すぞと脅されたわけでもないのに、強制に屈して一度署名すると、神道・儒教・仏教とキリスト教の関係について執拗にこだわるわけでもない。鑑三は不敬事件でも曖昧な態度を取って厳しく批判されると、根源的なところでの内省のないままに校長の言を入れて謝罪してしまう。キリスト教は絶対的な神を信奉する一神教なのであるから、天皇を絶対化する国体の思想と協調することはできない。キリスト教は偶像崇拝を禁じており、天皇の前に跪拝することは許されない行為である。聖書を素直に読めばキリスト教の神以外の〈絶対的存在〉を認めることできない。そんなことはキリスト教徒でなくても普通の解読力を備えた者には自明の理である。しかし、鑑三はこういった素朴で明確な解釈に身を委ねず、こじつけのような考えをもって対処する。この対処自体が鑑三の〈曖昧〉を体現しているが、当の鑑三はこの〈曖昧〉をきちんと凝視しない。事はあまりにも簡単である。キリスト教の神を信じているのならば天皇の前に跪拝してはならないし、天皇の前に跪拝するのであればキリスト教から離れるべきである。この簡単なことを実行できずに、あたかも二つの神に仕えることができるような曖昧な態度を取ったことに、良くも悪くも鑑三の〈信仰〉の特徴がある。