随想 空即空(連載24) #ドストエフスキー&清水正ブログ# 清水正

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清水正

 

 岩野泡鳴は『神秘的半獣主義』の中で「万物はすべて循環して居るので、環の一部分に留まれば一部分が現じ、環の全体に触われば全体が現ずる」「表象が表層を案内して、丁度盲人が盲人を手引く様に、時空という仮空的暗処をめぐり巡って居るのである」((十)表象の転換――無目的」)と書いている。ニーチェ永遠回帰説に親和性を覚える者にとって、この泡鳴の一見難解な文章も率直に受け止めることができる。

    ところで泡鳴は五部作「斷橋」の中で「多神も一神も主義上、禁物である」と書いている。泡鳴の言う〈万物循環〉とニーチェの〈永遠回帰〉を単純に重ね合わせることはできないかもしれない。わたしはニーチェ永遠回帰説を知る前に、十四才の日記に「万物は繰り返す」という論文を書いた。以来、わたしはすべての事象を必然と見なす必然者となり、善悪観念の瞬時の瓦解に立ち会った。先にも少し触れたように必然者にとって〈今〉は〈永遠〉であり、全自然との合一感覚を体感する。

  泡鳴は五部作『憑き物』で主人公義雄に中学生を前にした講演で「おれは宇宙の帝王だ! 否、宇宙その物だ!」というセリフを吐かせている。真意をくみ取れない中学生はそのセリフを聞いて大笑いするが、〈万物循環〉説を信奉する者にとっては、自分を絶対者、生成流転する全自然の司祭者とすら見なすのは当然なのである。

 『憑き物』を読む限り、義雄は自らの発する言葉を予め相対化することができなかった。義雄は視聴者の反応(義雄のセリフを根拠のない大言壮語と見なして嘲笑侮蔑すること)を予め予期して、それに対処することができず、侮辱を感じて「笑うとは何だ!」と大声を発して退座してしまう。義雄は作者泡鳴の生活と思想を多分に賦与された主人公で、自分を絶対化する余り、他者と腹の底から親密な関係性を結ぶことができない。が、そうは言っても、義雄はいたるところで不本意な妥協をはかっている。もし義雄が、あるいは泡鳴が時と場所と人を選ばず、一貫して「おれは宇宙の帝王だ! 否、宇宙その物だ!」と主張し続ければ良くて剽軽者扱い、最悪の場合は狂人と見なされ人間社会から排斥の憂き目に合うこと必至である。

 泡鳴は女関係の派手な男で、「耽溺」や泡鳴五部作などを読むと、かなりわがまま放題な男に見える。書かれた限りでみれば、妻や子供に対する愛情はほとんど感じない。子供の誕生や死に対して人間としての喜びや悲しみが全くと言っていいほどない。詩や小説を書くものには珍しいほど、妻と子供に対して愛と同情がない。泡鳴が「おれは宇宙の帝王だ」と思いこんでいることは一向にかまわいが、この帝王は余りにも妻と子供に対して無慈悲である。妻との間のことは、男と女の関係だから、嫉妬や憎悪に駆り立てられることは致し方ないとしても、子に対する肉親愛のないことはどうしたものであろう。ドストエフスキーが最も大事にした〈同情・憐憫〉が著しく欠けている。

 泡鳴の書いているものを読めば、彼が人一倍の読書家で思索人であることを疑う者はいまい。エッセイや論文においては全編に自信満々が漲っている。自分より独創的で天才的な作家はいないぐらいの勢いで書いている。芥川竜之介はこういった泡鳴の自信満々を皮肉って〈楽天家〉と書いているが、いずれにせよ自分の才能に微塵の疑いも持たずに、作家活動を続けてこられた泡鳴はその意味では誰よりも幸せ者だったと言えよう。

 私生活でのクズっぷりを臆面もなく小説にして評判をとり、独特の名声を獲得した泡鳴は天真爛漫な子供のような無垢な魂をもっていたのかもしれない。満四十八歳で死んだ泡鳴の全集(国民図書株式会社版)は十八巻を数える。作品だけを読めばふしだらな女関係に浸かっていたようなロクデナシが、日々、読書と執筆に明け暮れていたことを忘れてはなるまい。

 泡鳴の思想、哲学は本当に理解されているのか。〈宇宙の帝王〉〈宇宙その物〉としての泡鳴を、はたしてどれだけの人間が正当に、つまり泡鳴自身が認識していたと同じ次元で理解していただろうか。五部作には義雄の友人が何人か登場するが、義雄の思想を理解する者は一人としていない。碁をうち、共に郭遊びをしても、義雄の思想の核心を共に生きる者はいない。同時代人に理解されるような〈天才〉はもうそれだけで天才失格だが、理解者のいない孤独を泡鳴は一人噛みしめていたであろう。

 

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令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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