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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載23)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 かつて騎兵隊の同僚であったフォレスチェが、今ではすっかり貫禄のついた〈成功者〉として、年収千五百フランのジョルジュの眼前にあって、自らの処世術を誇らかに披露している。注意すべきはフォレスチェが、アドバイスだけして立ち去る男ではなかったことである。彼は〈ひとりぼっち〉のジョルジュに就職の世話までして、成功への扉を開いてやる。しかもその就職先とは自分の勤める新聞社なのだ。フォレスチェはジョルジュがやがて自分のライバルとなり敵となり、自分の妻をも奪うことになることを全く予期していない。なにしろ、フォレスチェにとってすべての人間は〈鵞鳥みたいに馬鹿で、鯉みたいに無知な奴ら〉と見なされているから、ジョルジュもまた彼にとっては〈鵞鳥〉か〈鯉〉のうちに数えられていたのである。フォレスチェはジョルジュの〈美貌〉、あらゆる女たちを虜にするその〈美男子〉ぶりを余りにも軽く見ていた。ジョルジュの〈美貌〉の魔力は、彼の〈馬鹿〉と〈無知〉を覆い隠し、大いなる力を発揮することになることをフォレスチェはまったく気づかなかった。

 フォレスチェはおしゃべりの最中、とつぜん激しく咳こむ。彼はしばしば気管支カタルの発作に襲われるという持病を持っている。ふつう持病で苦しんでいる人間は、病気で苦しんでいるほかの人間にたいしても深い同情を寄せたりするものだが、フォレスチェにそういった同情心を見ることはできない。彼は通りを歩く群衆を〈馬鹿〉の一括りにして、満足のにやにや笑いを顔に浮かべているような傲岸不遜な利己主義者であり、同情、憐憫といった感情を持ち合わせてはいない。『罪と罰』のレベジャートニコフがイギリス発祥の功利主義的経済学を紹介するにあたって「同情などというものは、学問上ですら禁じられている」と言っていたのを思い出す。フォレスチェにとっても〈同情〉(сострадание)は彼の実際的精神に基づく処世術に反するものであり、こんな感情に支配されること自体が、組織で成功を収めようとする人間にとっては何よりも先に排除しておかなければならないものということになる。

 『罪と罰』で〈実際的精神〉(делοвитость)を存分に発揮して成功を収めたのは弁護士ルージンである。彼はロジオンの妹ドゥーニャの婚約者であったが、ロジオンの強烈な反対によって婚約は破棄されてしまった。そもそもドゥーニャが愛も尊敬もないルージンとの結婚を承諾したのは、これすべて兄ロジオンのためであった。ルージンが兄ロジオンのために尽力してくれるのではないかと思ったのである。ドゥーニャは賢い女と見られているが、ことルージンとの婚約に関しては愚かな選択であったと言わざるを得ない。ロジオンはルージンのような〈実際的精神〉を体現したような人間に対して激しい嫌悪を抱くような青年である。ドゥーニャは兄の性格を見誤ってしまった。ロジオンの母と妹は、兄のためと言いながら、ルージンの経済的援助をなによりも当てにしてしまった。プライドの高いロジオンはそのことに我慢ができず憤怒にかられてしまうのである。

 こういった点に注目すれば、ロジオンはジョルジュとはまったく違う性格の持ち主ということになる。しかし、先にも指摘したように『罪と罰』を熟読すると、ロジオンは最初の印象とは違ってかなり軽佻浮薄な側面も有している。スヴィドリガイロフとポルフィーリイ予審判事のロジオン評をまとめれば、ロジオンは、二人の女を殺しておきながら自身は悩める蒼白き天使のような顔をしてペテルブルクの街をさまよっている悪党なのである。ロジオンが下宿の娘ナタリアと結婚の口約束をしたのも、そのことでただで性欲を満たし、同時に女将から借金できると踏んだからである。この見方が残酷すぎると思う読者は冷静に、ロジオンの観念世界から解放された地点でロジオンを見つめ直したらいい。そこに浮上してくるのはフォレスチェのアドバイスに従順でなかった者のひとつの紛れもない悲劇的末路を生きた青年の無惨な姿を見るであろう。

 ロジオンの母と妹は神の前に祈りながら、悪魔の誘惑にかかったのであり、始末の悪いことには彼女たちはそのことをしっかりと認識できていないことである。ラスコーリニコフ家の未亡人と二人の子供たちは、謂わば悪魔の巧妙な誘惑にのりながら、そのこと自体を明晰に認識できないままに、その悲劇的な運命に翻弄されているのである。

 ところがジョルジュの場合は、フォレスチェのアドバイスを悪魔の誘惑などと見る視点は完璧に備わっていない。その意味で、この出会いの時点に限れば、ジョルジュはフォレスチェの忠実な弟子として彼の忠告に素直に耳を傾けている。

 ロジオンは二人の女を殺して、自分がナポレオンのような〈非凡人〉でないことを明確に自覚して苦しんでいる。フォレスチェは略奪目的で三人のアラビア人を殺しても平然としている。殺人に対する後悔、罪意識などというものはまったくなく、それどころか略奪と殺人を笑い話の種にして愉しんでいる。これだけを見れば、ジョルジュは十分に〈ナポレオン〉になれる素質を有していることになる。

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