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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載15)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 それでは次の場面を見てみよう。

 

  ジョルジュ・デュロワは、大通りまでくると、どうしてよいかわからなくなって、また足をとめた。そして、シャン=ゼリゼからブーローニュの森の並木道へいって、木の下で少しは涼しい風にあたろうかとも思ったが、が、ある欲望が彼の心にまつわっていた。つまり粋な女に出あいたかったのだ。

  その女がどういうふうにしてあらわれてくるか、見当もつかなかったが、彼は三月まえから、夜も昼も、待っていた。もっとも、時には、例の美貌としゃれた身ごなしのおかげで、ちょいとした恋を、あちこちで盗みはしたが、彼はいつももっと多くを、またもっとましなのを望んでいた。

  ポケットがからで、血が煮えたぎっていた彼は、町角で、客をひく女たちから、「ちょいと、いい男のお兄さん、家へいらっしゃいよ」と声をかけられても、金が払えなかったので、あとについていくことができなかった。だから、彼はそんなのとはちがった、別の、もっと品のある接吻を待っていた。

  だが、彼は街の女のうようよしている場所や、彼女らの網をはっている、ダンス・ホールやカフェや街路が、好きだった。彼女らとすれちがったり、立ち話をしたり、親しげな口をきいたり、その強い香水のにおいをかいだり、そばにこびりついていたりするのが好きだった。そうした連中も、要するに、女、恋のための女だ。彼は彼女らにたいして、身分のいい男たちのような、生れながらの軽蔑を、別段感じなかった。(292)

 

 ここにきてジョルジュの欲望、すなわち〈粋な女〉に出会いたいという欲望が彼の心を支配していたことが分かる。人間には様々な欲望が存在する。出世欲、名誉欲、権力欲など社会的野望を抱いている青年ならこれらの欲望に無縁な者はいない。しかしジョルジュの欲望は今のところ、女への欲望が何よりも優先している。出だしの場面で、ジョルジュは安レストランの常連客(女たち)を〈投網のまなざし〉で瞬時に捕らえていたことを忘れるわけにはいかない。ジョルジュが頼りにできるのは、女たちを虜にする生まれながらの美貌であり、彼はすでにこの武器が例外なく強い力を発揮することを体験的に知っている〈女たらし〉なのである。今、ここでジョルジュが〈女たらし〉としての欲望を素直に表明しても、それはごくあたりまえのことで、べつに驚くことではない。

 ところで『罪と罰』の人物たちはどうだろうか。〈女たらし〉ですぐに連想するのはドウーニヤを誘惑したスヴィドリガイロフである。が、彼だけが〈女たらし〉(色魔)であったわけではない。ロジオンの友人ラズミーヒンは苦学生で、友達思いの闊達な好青年の印象が強いが、しかし同時に女にたいしては盛りのついた雄犬のように振る舞っている。

 ラズミーヒンはロジオンの新しい住居を探し出すと、そのアパートの女将プラスコーヴィヤとその日のうちにハーモニーを奏でるような、すなわち性的関係を結ぶような、まさにジョルジュも顔色を失うような〈女たらし〉なのである。しかもラズミーヒンは三年振りに兄ロジオンを屋根裏部屋に訪ねてきたドウーニャに一目惚れしてしまい、邪魔者となったプラスコーヴィヤを彼と同じく〈女たらし〉の医師ゾシーモフに巧言を弄して押しつけようとする。ラズミーヒンは結果として、スヴィドリガイロフの手から逃れ、弁護士ルージンとの婚約を破棄したドゥーニャを口説き落として結婚する。

 

 『罪と罰』の読者で、登場人物たちの形而下的実態に注目した者はいない。『罪と罰』は形而上学的側面、思想・哲学・宗教などの側面からは数々の考察を積み重ねられたきたが、人物たちの生身の部分に関しては特別の関心を向けられることはなかった。わたしも十代の頃は、もっぱら観念的次元で『罪と罰』を読み続けてきた。『罪と罰』の中に出てくる女性と言えばソーニャしか眼に入らなかった。それがやがて美女ドウーニャ(この女性は男を惑わす魔性の女でもある)に移り、今では女中のナスターシャに最も魅力を感じる。

 女中ナスターシャは、屋根裏部屋で日がな一日ごろごろしているロジオンが〈仕事〉は〈考えること〉だと口にしたとき、からだ中をふるわせて笑い転げている。ロジオンの殺人に至りつくような思想や観念を笑い飛ばせる健全な常識を体現しているのがナスターシャで、わたしは彼女にロシア民衆の本源的な姿が賦与されているように思えた。この飾り気のない笑い上戸のナスターシャの心をも引きつけたのが雄犬ラズミーヒンである。ラズミーヒンが口説けば、ナスターシャもすぐにハーモニーを奏でたかも知れない。

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