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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載38)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 くどいようだが、〈第一日目〉の最後の場面を見ておこう。フォレスチェが立ち去った直後の場面である。

 

  友だちの姿が見えなくなるとすぐ、デュロワは急に肩が軽くなったような気がした。そして改めてはずむ心でポケットの中の二枚の金貨に触った。それから、立ち上がって、めざすものを物色しながらひと渡り群衆を眺め廻した。

  じきに見つかった。例の二人の女、鳶色と金髪は、相変わらず、男の雑踏の間を、乞食女の傲然たる様子で、泳ぎ廻っていた。

  彼はまっすぐにそっちへ進んで行った。しかしすぐそばまで来ると、足がすくんだ。

  鳶色が彼に向かって言った。

  ――舌が言うことをきくようになった?

  デュロワは口の中で「ばか」と言ったが、それ以外の言葉を口に出して言うことはどうしてもできなかった。

  三人とも立ち止まってじっとしていたので、ぞろぞろ歩いて行く連中の流れがせきとめられ、三人の周りで渦を作った。

  それから、突然女がこう訊いた。

  ――私のうちへ来ない?

  デュロワは、飛びつくばかりに心をはずませながらも、乱暴に答えた。

  ――行ってもいい。しかし一ルイしか持ち合わせがないぞ。

  女は無造作に笑った。

  ――そんなこと何でもないわ。

  こう言って女は占有のしるしに男の腕をとった。

  二人で出て行きながら、デュロワは、もう一枚の二十フランがあれば、明日の夜会服を、損料費で、容易に手に入れることができる、と思ってみた。(上・34~35)

 

 一見なんでもないような描写の中に、様々な情報が詰まっている。まず二人の娼婦だが、彼女たちには名前がない。ここでは〈鳶色〉と〈金髪〉と訳されているが、要するに頭髪の色で個別化されている。彼女たちの個性は身につけた服装や化粧、体つき、口のききかたなど微妙に違うはずだが、作者は敢えて二人の個別化に神経を使っていない。ジョルジュが気に入っているのは鳶色で、茶髪は鳶色の相棒、というより単なる添え物扱いで、読者は具体的にイメージすることさえできない。鳶色は初めてジョルジュを目にしたときから彼を獲物としてとらえており、彼女なりの戦略を駆使している。ジョルジュはまんまと鳶色の仕掛けた罠に自ら飛び込んでいったようなものだが、二人共に納得ずくなのでなんの問題もない。鳶色が自分の〈いえ〉に来ないかと誘っていることは、要するにただでもオッケーという合図のよにも受け取れるので、しみったれのジョルジュが鳶色の意向を尊重したとも考えられる。いずれにせよ、読者はジョルジュと鳶色の秘密事に暗幕をかけられているので真実のところはわからない。

    わたしは『罪と罰』論で〈ソーニャの部屋〉について詳細に検証したが、ジョルジュを引き込んだ鳶色の部屋に関してはそれほど興味を抱くことはない。〈ソーニャの部屋〉にはロジオンが殺したリザヴェータから譲り受けた新訳聖書が置かれており、まさにこの部屋は〈罪と罰〉を宗教的次元で深堀しなければならないが、おそらく鳶色の部屋には読者の形而上学的興味をひくような小道具は何一つ備わっていなかろうと思われる。ジョルジュのような中身空っぽの好色漢とグラマーな娼婦が二人きりになれば、そこですることはきまっており、特別に想像力を働かせる必要もない。

 作者は人物たちの内面にほとんど関知しない。『ベラミ』においてロジオンのように考える人物はいないし、ロジオンとポルフィーリイ予審判事との間で交わされたような相手の内部に食い入るような会話が展開されることもない。ジョルジュは主人公であるにも拘わらず、終幕に至るまでその内部世界に照明を与えられることはなかった。〈第一日目〉に限れば、ジョルジュは金と女しか頭にないような美貌な色男というだけで、鳶色の娼婦にはもてたが、一読者のわたしには彼の魅力をどこにも見いだすことはできない。人生いかに生きるべきかの探求心はなく、宗教、文学、芸術にはなんの興味も示さない、この凡庸な青年が、新聞社に入っていったいどのような記事を書くというのだろうか。フォレスチェはジョルジュに向かって「君は全く女にもてるね。こいつは大事にしなければならんよ。これで出世ができる」などと言っているが、現実において女にもてるだけで出世した者はいない。逆に、もてることで同僚たちの嫉妬や反感を買う場合の方が多いのではないかと思われる。現に、フォレスチェは自分の妻をジョルジュに奪われている。フォレスチェはこの〈第一日目〉において、女にもてるジョルジュを誰よりも警戒しなければならなかったはずなのに、どういうわけか元軍隊仲間に対する警戒を完全に怠っている。これは一人フォレスチェの責任と言うよりは、作者の側に問題があったとみるほうが納得がいく。

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