プーチンと『罪と罰』（連載36）
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清水正・画
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ドストエフスキーの文章は熱狂的なもので煽動的ですらある。彼は、自分の意見に対する反対者の意見を取り上げ、それに反論を加えることで自分の主張の正当性を図っている。彼のような知識人がヨーロッパかぶれの知識人に打ち負かされるようなことはない。
ところで、わたしは彼の文学作品を通して、彼が並外れた人間心理の洞察者であることを十分に知っている。だからこそ、わたしは彼の熱狂的とも言える、一義的な戦争肯定の言説に頭を傾げざるを得ない。彼の戦争肯定論には、彼が創造した人物たちに特徴的な精神の分裂が見られない。彼はロシアの民衆を大きく一括りにして、まるで彼らがすべて同じ顔、同じ感情によって生きているように見なしている。
当時のロシア知識人に西欧派とスラヴ派が存在したように、はたしてロシアの民衆を一色の大風呂敷で包み込んでしまっていいのだろうか。〈ロシアの民衆〉、〈ロシアの百姓たち〉と言葉で括ってみても、実際には各々異なった思想、信条、個性を持った人間たちの集合なのであって、文学はそのかけがえのない一人一人に照明を与える行為なのではないか。戦争を忌避する者が、ロシア民衆の中にただの一人も存在していないかのような〈民衆崇拝〉の熱狂的言説にわたしは率直に危険性を感じる。
小説においては、まさにミハイル・バフチンが「それぞれに独立して解け合うことのない声と意識たち、そのそれぞれに重みのある声の対位法を駆使したポリフォニイこそドストエフスキイの小説の基本的な性格である」と指摘したように、ドストエフスキーの作品世界は各々の独立した価値を持つ〈我〉たちの交流するポリフォニックな世界であり、その中の一つの〈我〉が絶対価値を獲得することはない。
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エデンの南 清水正コーナー
動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB
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お勧め動画・池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェの永劫回帰・アポロン対ディオニュソス、ベルグソンの時間論などを踏まえながら
人間のあるべき姿を検証する。人道主義（ヒューマニズム）と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義と一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。
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「清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。
令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ
発行日 2021年12月3日
発行人 坂下将人 編集人 田嶋俊慶
発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1
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