プーチンと『罪と罰』（連載52）

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　　　　　　　　　　　　　　　　清水正・画

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プーチンと『罪と罰』（連載52）

清水正

　吉村善夫の『邂逅』を読むと、彼がどのような精神的課程を経てキリスト教を信仰するに到ったかが分かる。彼はイヴァン・カラマーゾフの不信と懐疑をくぐり抜けてキリストに出会っている。彼の信仰が今再びイヴァン流の懐疑に落ちる可能性が全くないわけではないが、しかし彼にとってキリスト教信仰がかけがえのないものであることは確かである。ところでわたしと言えば、『カラマーゾフの兄弟』を読んで半世紀以上たつが、キリスト教に入信しようと思ったことはただの一度もない。キリスト教のいう〈原罪〉〈罪〉〈神の子キリスト〉〈処女マリアの懐妊〉〈三位一体〉など、わたしの理性が受け入れるものではない。さらに福音書に書かれたキリストの言葉「汝の敵を愛せよ」「上着を取られたら下着をも与えよ」なども受け入れがたい。

　今、ロシアはウクライナに侵攻し、両国の戦争は長期化の様相を呈しているが、ウクライナの戦う兵士に向かってこれらの言葉を発することのできるキリスト者がいるのだろうか。テレビ・新聞などは戦争の本質的な考察を回避して、もっぱら戦局的次元での報道に終始している。戦争が長引くにつれて、日本国民全体の関心も希薄化の一途をたどっている。平和時において一人の殺人でさえ大きく取り上げられるのに、ロシア・ウノライナ戦争で何万人もの犠牲者が出ているにも拘わらず、国民は戦争を凝視しようとはしなくなっている。これは飽きっぽい日本人だけの問題ではなさそうである。