プーチンと『罪と罰』(連載37)
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清水正・画
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汎スラヴ主義的な民族の大同団結を主張する戦争肯定論者と、あくまでも戦争を否定する平和主義者は本来、ドストエフスキーのディオニュソス的世界にあっては等価なものとして存在しているはずだが、『作家の日記』を記している〈筆者〉は、前者の立場に賛同し、後者を皮肉まじりに貶めている。小説家が時事的な発言をすることの危険性をドストエフスキーは端的に表出しているかのように思える。〈сострадание=同情・憐憫〉の作家ドストエフスキーが戦争肯定の言説を熱狂的に語るというのはまことに納得しがたいことである。国家元首や政治家や軍人が、時と場合によって戦争の必要性や正当性を主張することは分からないではないが、よりによって〈сострадание〉の作家ドストエフスキーがどうしてこんなにも一つの主義主張に加担しなければならなかったのか、まったくふしぎなことだが、看過するわけにはいかないので今しばし検証を進めることにしよう。
ドストエフスキーの熱狂的な戦争肯定の言説を読みながら、わたしの脳裡に浮かんできたのは、アポロン・マイコフの回想「秘密印刷」の中の一節「いまでも覚えていますが、ドストエフスキーは寝衣の襟ボタンもかけず、友等を前に死にゆくソクラテスさながらに、持ち前の雄弁のかぎりをつくして、この事業の神聖さや、祖国を救うべきわれわれの義務などを語りはじめました」である。
ドストエフスキーは漏れれば死刑にすらなるかも知れない秘密結社への入会を友人のマイコフに熱弁をふるって誘っている。ドストエフスキーの聴く者の魂をはげしく揺さぶる熱弁や朗読はひとりマイコフにかぎらず、ペトラシェフスキーの仲間の証言もある。幸いにして〈秘密印刷機〉の件は当局に知られることなく、ドストエフスキーは結果として過激な革命家としての烙印を押されずにすんだ。一度は死刑を宣告されたドストエフスキーであるが、処刑寸前で皇帝ニコライ一世の特赦によりシベリア流刑四年、一兵卒勤務四年に減刑されている。一般的にはドストエフスキーはシベリアの監獄でロシアの民衆と出会うことでペトラシェフスキー時代の革命思想を棄ててキリスト教信仰へと回心したと言われている。が、ことはそうそう単純ではない。
ドストエフスキーは自らの内に芽生えた革命思想をペトラシェフスキー事件で逮捕、監禁、取り調べ、死刑宣告、恩赦などを経て、奥深くに封じ込めたとも言える。もし逮捕が何ヶ月か先であったなら、ドストエフスキーの過激な革命思想は秘匿できないほどに露わになっていた可能性もある。ドストエフスキーが友人のアポロン・マイコフ相手に秘密結社入会の件で熱弁をふるったこと、ペトラシェフツィの前でベリンスキーの手紙を魂を込めて朗読したことなどは、まさに彼の革命思想の顕在化を端的に示しているが、良くも悪くもシベリア体験は彼に革命思想の再検証の豊かな時間を与えたことに間違いはない。
ドストエフスキーは小説世界では〈それぞれに独立して溶け合うことのない声と意識たち〉を縦横自在に操る演出家ぶりを存分に発揮するが、『作家の日記』のような時事問題を扱う場合には、〈筆者としての我〉は一義的な〈声〉を優先して、それを徹底して相対化するということはなかった。『作家の日記』の〈筆者〉はモノローグ的な存在として一義的な主張を繰り返し、その〈主張〉を根底から打破するような他者を用意していない。〈筆者〉の意見に否定的な論者は、彼から〈独立して溶け合うことのない声〉を発することができない。反対論者は〈筆者〉から、いわば〈想定した他者〉として登場(引用)することしか許されず、〈筆者〉と対等の独立した〈声〉を発することを予め封じられている。
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エデンの南 清水正コーナー
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お勧め動画・池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェの永劫回帰・アポロン対ディオニュソス、ベルグソンの時間論などを踏まえながら
人間のあるべき姿を検証する。人道主義(ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義と一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。
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「清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。
令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ
発行日 2021年12月3日
発行人 坂下将人 編集人 田嶋俊慶
発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1
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