プーチンと『罪と罰』(連載6) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載6)

清水正

 

 プーチンウクライナ侵攻によって、改めて人間とは何か、を考えさせられる。人類は万物の霊長とか言っても、未だに戦争を回避できないでいる。今や、アメリカとロシアの持っている核兵器だけでも、戦争で使用すれば人類が滅亡すると言われている。核兵器が戦争を回避し、平和を維持することができるという神話が壊れようとしている。人類が核兵器をどんなことがあっても使用しないとはもはや誰も確言できなくなっている。

    なぜ人間は人類全体を滅ぼすほどの核兵器を開発してしまったか。人間は本当に平和を願っているのだろうか。否、人間心理の底には自らの滅亡を願う欲求も潜んでいる。本当に人間が平和だけを望んでいるのなら、残虐非道な戦争など起こすはずはない。人類が繰り返し繰り返し戦争を起こしてきたのは、人類が戦わずにはおれない本能を持っているからにほかならないであろう。人類はこの地上世界において、永遠の平和を維持することができない、破壊願望を満たさずには生きておれない存在なのである。

 他民族ばかりでなく同族に向けても銃弾を発することができるのが人間であるということ、現に起きている戦争はそのことを端的に証明している。人間はどんなに残虐なこともできるし、そうした上で人道主義者にもキリスト者にもなり得るのである。戦争は人間とは何かを、負の領域から把捉し直すことができる。そのことによってまた平和、人道主義を標榜する者の根深い欺瞞を晒すこともできるだろう。

 プーチンウクライナ侵攻に対して今、キリストの教え(汝の敵を愛せ)を大まじめに説くことのできる者がはたして何人いるだろうか。自分の愛する親や兄弟を残虐なやり方で殺した相手をどのように愛し赦せるのか。やられたらやり返す。まさにキリストが否定した〈歯には歯を〉を実行しているのがロシア・ウクライナ戦争である。

 この〈歯には歯を〉には様々な解釈があるが、要するに報復主義の肯定であってキリストの教えには反している。暴力に対する無抵抗が相手の暴力を抑制するよりは助長させることがある。個人間の場合も、国家間の場合も事情は同じである。異なったイデオロギー、宗教、民族で構成された国家間で平和を維持することがどんなに困難であるかは歴史が証明している。

 モーセが厳しく〈殺し〉〈盗み〉〈姦淫〉〈偽証〉などを禁じたかと言えば、人間がそれを不断に犯す存在だからである。もし人間が〈愛〉と〈赦し〉を揺るぎなく備えた存在であれば、戒律などを神の名において設ける必要はない。キリストの教えが永遠性を持っているのは、人間がどこまで行っても様々な欲望から解放され得ない存在だからこそである。

 政治家や宗教家は自らの内に根深い覇権欲を隠しており、その欲望を満たすためにはあらゆる手段を正当化し、国民や信者をたぶらかそうと抜け目なく企んでいる。人間がその構成する組織において、一段でもほかの者より上の位階につきたい、金や権力を持ちたいという欲望が滅却されない限り、人類社会は〈戦争〉を免れることはできない。

 ドストエフスキーは「人間はなんにでも慣れる」と言ったが、換言すれば「人間はなんでもする」ということである。殺人も陵辱もするし、そうした後で平気な顔で民主主義や人道主義も標榜することができるのである。証拠がほしければ、今現在、人間がしていることを見ればいい。

 

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発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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