プーチンと『罪と罰』(連載29)

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載29)

清水正

 

 プーチンドストエフスキーの思想のどこに偉大さを感じているのかは不明だが、政治家が作家を評価する時は要注意である。ましてや今や独裁者として振る舞っているプーチンのことである、彼はロシア正教会と結託してウクライナ侵攻を正当化するだけでは足りずに、世界の文豪ドストエフスキーの〈思想〉までをも借りて自らの権威付けを果たそうとしているのであろうか。まさかドストエフスキーの〈思想〉がウクライナ侵攻を肯定するとでも思っているのであろうか。

    ドストエフスキーはイワン・カラマーゾフを通して世界に存在する不条理を暴き告発している。イワンは世界に存在する様々な不条理、悲惨で不公平な事柄を具体的に突きつけることで、創造神に抗議する。イワンの求めている神は、この地上世界において真理・公正・正義を体現する神であり、不条理に対して沈黙を守り続ける神ではない。イワンは父フョードルの「神は存在するのか」という問に対して、迷うことなく「神は存在しない」と答えた。これはイワンが単純に神の存在を否定しているのではなく、不条理満載の世界を造った神に抗議していたと見た方が納得が行く。

 イワンは神が自ら創造した世界において真理・公正・正義を体現するものでなければ認めない。見方を変えれば、イワンは創造神を否定するが、愛と赦しのキリストとして地上世界に現出したイエスを否定することはしない。イワンがアリョーシャに向かって具体的に取り上げた無辜な子供たちの残酷無惨な数々の仕打ちを前にすれば、どんなに信心深いキリスト者も不信と懐疑の念にとらわれるだろう。

 神が存在するとして、どうして神はこういった地上世界において絶え間なく起きている悲惨な現実に対して救いの手を差し伸べないのか。今、現にウクライナでは多くの子供たちが砲弾銃弾の犠牲になっている。こういった無辜な子供たちを犠牲にする戦争を、人類は性懲りなく繰り返している。ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』を書いた十九世紀以前も、そして二度にわたる世界大戦を経た、二十一世紀の今日においても世界各地で紛争や戦争が繰り返されている。

 こういった現実を直視すれば、宗教も哲学も思想も無力そのものに思える。キリストが世界に何人現出すれば、無辜な子供たちの犠牲を食い止めることができるのだろうか。愛と赦し、暴力を否定するキリストを信仰しているはずの、世界中のキリスト教会に所属している〈信者〉がキリストの教えに背いているとしか思えない。

 偉大な思想家ドストエフスキープーチンウクライナ侵攻を肯定するであろうか。作品においてディオニュソス的世界を描いたドストエフスキーは、現実を生きる一人の人間として戦争をどのように受け止めていたのか。

 わたしは先に、現実世界を生きるドストエフスキーはひとりのロシア正教徒であったと書いた。作品世界の中にはキリスト者も不信心な者も同等の存在として描いたドストエフスキーであるが、彼は現実世界の中でディオニュソス的分裂者として振る舞っていたわけではない。

 精神世界において一義的判断を下せない者が、現実世界においては一義的判断を迫られることがある。戦争を否定する者、肯定する者、その両者の主張を同等の価値を持つものとして描いても、現実を生きるドストエフスキーは一人の人間として一義的回答を求められる。「あなたは戦争に反対なのか、それとも賛成なのか」と問われて、ドストエフスキーはどのように答えるだろうか。

 キリストはいかなる暴力をも否定しているのであるから、もしドストエフスキーがキリストの教えに忠実なら、とうぜんのこととして戦争を否定するであろう。が、問題は単純てはない。ロシア正教会の総主教キリルがウクライナ侵攻のプーチンを支持しているのをどう理解すればいいのか。トルストイのようにキリストの教えを最重要視する者にとっては、総主教キリルがキリストを裏切る者であり、彼をトップに据えているロシア正教会自体が反キリストの巣窟ということになろう。

 はたして現実のドストエフスキーはキリストの教えに従う者なのか、それとも反キリストの巣窟であるロシア正教会の教義を受け入れる者なのか。

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