プーチンと『罪と罰』(連載21) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載21)

清水正

 

 ドストエフスキーの文学をいくら読んでも救いはない。ドストエフスキーの文学は救済の文学ではなく、「人間とは何か」を徹底して追及した文学である。『罪と罰』を読んでキリスト者になったひとをわたしは知らない。わたしはトルストイの宗教論文を読んで、彼をキリスト者と思ったことはない。トルストイは地主であることを放棄し、農奴を解放し、著作の印税すべてを投げ出したのか。キリスト者が八十二歳まで生きられるということそのこと自体が信じられない。

 わたしはトルストイドストエフスキーも各々の仕方で人間を描いた偉大な小説家とは思うが、キリストの教えに忠実なキリスト者であったとは思わない。小説を書き続けるためには絶対的なものに対する不信と懐疑を必要とする。これが創作の必要不可欠のエネルギーであり、これが枯渇すれば創作の現場に立つことはできない。

 ドストエフスキーキリスト者の道を断固として歩もうとしたなら、『罪と罰』の主人公に与えた「思弁の代わりに生活が到来した」に倣って「創作の代わりに生活が到来した」と言ってペンを折ったらよかったであろう。しかし、周知の通り、ドストエフスキーは『カラマーゾフの兄弟』に至るまで人間を描くペンを折ることはなかった。ドストエフスキーにとって創作行為そのものが〈生活〉(жизь=命)であり、別にそれ以外の生活が用意されていたわけではない。

 ロジオンの思弁は彼のうちで死に絶えることはなかったし、それはロジオンばかりでなく、自分の頭で物事を考える者すべてのうちで生きている。ロジオンの悪夢の中では〈理性と意志〉は人類を滅亡に導く、とんでもなく悪の〈旋毛虫〉のように扱われているが、たとえそうであったにしろ、〈理性と意志〉を捨て去った後の人間の生きてある姿を想像することはできない。偉大な創作家ドストエフスキーでさえ、〈選ばれたる純な人々〉の生活を具体的に描くことはできなかったのである。

 ロジオンの〈悪夢〉を読んで、つまらぬ少女趣味的幻想を抱くのではなく、一度は徹底して絶望したらいいのである。絶望を恐れず、引き受けてから、もう一度〈理性と意志〉の〈旋毛虫〉を、〈精霊〉を考えたらいいのだ。ドストエフスキーを絶対化する前に、ドストエフスキーが抱え込んだ絶望ぐらいはしっかりと見ておかなくてはならないだろう。

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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