プーチンと『罪と罰』(連載22) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載22)

清水正

 

 ロシア・ウクライナ戦争の報道番組と同時に半世紀以上ぶりに「コンバット」を見続けている。報道番組では放映されない戦場の現場を「コンバット」は生々しく伝える。第二次世界大戦から八十年近くたった今、兵器は進化したとはいえ、戦車、大砲、機関銃による激烈な戦場場面は、現在のロシア・ウクライナ戦争を彷彿とさせる。現代人は使えば人類破滅につながる核兵器を開発したが、前線の現実は今も昔もなんら変わらない。「コンバット」は戦場における人間のあり方をつくづく考えさせられる。

    全百五十二話のうち三分の一ほどを観たが、特に軍曹サンダースの生き方が感銘深い。サンダースの部隊長としての基本は、上官の命令を絶対としてそれに従うこと、命令に不服な者、命令に反する部下の身勝手な言動は決して許さない、前線において最も危険なことは部下にまかせず自らが率先して行動する、などである。

 サンダースは寡黙な男で戦場において無駄口はいっさい叩かないし、部下にもそれを要求する。どんな困難にも、不条理に対しても怯むことなく、果敢に突撃していく。部下の命を自分の命よりも大切にし、部下がどんな不満や反抗心を抱いていても、そのこと自体を一方的に攻めたりしない。終幕場面では、戦場での問題児(妙にプライドの高い、あるいは臆病な自己中心的な新米兵士)と例外なく和解する。

 アンダーソンは行動で模範を示す典型的な分隊長であり、どんな事態に対しても理屈を挟むことはない。戦場の不条理は不条理のままに描きだされ、その不条理に立ち止まって思考を深めるようなことはない。サンダースは読書家でも思索家でもなく、与えられた使命を全うすることだけに戦場を生きている。視聴者はサンダースや部下約六名ほどの名前、顔、性格、および彼らの人間的触れ合いなどを観ることはできるが、ひとりひとりの登場人物の内面深くに踏み込むことはない。

 「コンバット」は戦争の不条理は描くが、その不条理を告発しはしない。「コンバット」において〈戦争〉は、不可避的な現実として、逃れることのできない所与としてある。戦場における人殺しを批判し、逃亡をはかる兵士はこの映画においては卑怯者の烙印を押されるのだ。戦争の善悪を問うてはいけない、戦場に送られた兵士は命令に従って自分に与えられた使命をまっとうせよ、命令する者が上官であれ、国家であれ、神であれ、それは不問に付しておかなければならないのである。

 「コンバット」に登場する兵士も、この映画を観る者もまた、無意識のうちにサンダースの揺るぎなき使命感に共感し、終幕場面においては彼らの〈微笑〉を受け入れているのである。サンダースの生き方、その与えられた使命に生きる男の生き方を、断固として拒否できる生き方を提示できなければ、人類は依然として「コンバット」の世界を生き続けるほかはないということになる。



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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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