プーチンと『罪と罰』(連載23) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載23)

清水正

 

  「コンバット」は戦争映画であるが同時に人間ドラマでもある。戦場という究極の場に置かれた人間の誤魔化しようのない裸像が描き出される。しかし、このテレビ映画は様々な制約のもとで製作されている。戦争の現場における目に余る残虐非道の場面は慎重に回避されている。例えば死に至る苦悶の姿や、婦女暴行などの場面はない。敵であるドイツ兵は人間の姿をしたロボットであり動く人形のように描かれ、その銃弾、砲弾で倒れる姿に同情は起きないようになっている。ドイツ兵がアメリカ兵のように扱われることはあっても、視聴者の感情移入は生起しないような描きかたに押さえられている。

 「コンバット」で戦争の悲惨やその不条理性を露骨に暴けば、テレビ放映自体が許されなかったであろう。莫大な制作費をかけてお茶の間で放映されるテレビ映画が、妥協なき人間探求、戦争の非人道性を追求告発することはできない。軍曹として容赦なく敵兵を殺す使命を帯びたサンダース軍曹の生き方そのものを否定することは許されない。多くの自国民の犠牲を払って正義の戦争を遂行しつつあるサンダースを否定することは、アメリカという〈民主主義国家〉の否定につながるのだ。

 ロシア・ウクライナ戦争を報道番組でしか知り得ない今のわたしにとって、「コンバット」はフィクションでありながら戦争の持つ不条理性をリアルに伝えてくれる。わたしは「コンバット」アメリカ人やドイツ人よりはより公平な立場で観ることができる。アメリカの兵士もドイツの兵士も、個人の意志を越えて戦場に駆り出された同じ人間とみることができる。彼らは彼らなりの精神世界を生きていたはずであり、殺し殺される戦場の当事者として戦争に関する断固とした思いを抱いていたはずである。が、「コンバット」において兵士の内面に必要以上に踏み込むことは厳しく制限されている。

 もし、「コンバット」の戦場に、非戦論を唱える〈トルストイ〉や、汝の敵を愛せよと唱える〈キリスト〉が現れたらどうなるのだろうか。「コンバット」には暴力に対する無抵抗主義のトルストイや愛と赦しのキリスト、ましてや不信と懐疑の王とも言えるドストエフスキーが登場する場所が完璧に用意されていない。

 ロシア軍とウクライナ軍の戦闘状況を「コンバット」並にリアルに伝える報道番組はないが、戦闘後の破壊され尽くした町や村の模様を見ることはできる。ウクライナの美しい自然や建造物はロシア軍の砲撃によって廃墟と化してしまった。ウクライナの国民の多くが理不尽な侵略攻撃によって故郷を離れ他国へと亡命せざるを得なくなった。幼い子供を抱えて長い道のりを歩き、バスや電車を乗り継いでようやく亡命国(主にポーランド)についても、先の見通しが確かなはずはなく、亡命者は一様に行き場のない悲しみと怒りを押さえ込んで不安げな様子である。

 今後、戦争が続く限り、犠牲者の数は増し、悲劇は幕を下ろすことができない。夫を失った妻、父を失った子、息子を失った母たちの苦しみと嘆きは深まるばかりである。戦争の残酷、悲惨は、両目を大きく開けて凝視しなければならないだろう。はたして、戦争を性懲りなく繰り返してきた人類は、そこから決定的な何かを学ぶことができるのだろうか。



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令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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