プーチンと『罪と罰』(連載10) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載10)

清水正

 

 ここでロジオンの〈踏み越え〉におけるリザヴェータの予期せぬ出現を想起しておこう。  ロジオンにおけるリザヴェータとは、彼の〈非凡人〉思想に隠された〈すべては許されている〉の具象的存在である。ロジオンが意識的に計画していたのは高利貸しのアリョーナ殺しであり、それは〈良心〉に照らして許されていた。が、リザヴェータ殺しはその範疇から逸脱している。ロジオンはリザヴェータを社会のシラミ、不要物と見なしてはいない。しかし、目撃者リザヴェータを見逃すことはできない。ロジオンは斧を振り下ろした。

 プーチンにおける〈アリョーナ殺し〉を〈クリミア侵攻〉と見れば、〈ウクライナ侵攻〉は〈リザヴェータ殺し〉と見ることができる。第一回目の〈踏み越え〉は第二回目の〈踏み越え〉を不可避的に招き寄せる。だが、ロジオンが〈リザヴェータ殺し〉に成功したようには、プーチンの〈ウクライナ侵攻〉は成功しない。ウクライナ大統領ゼレンスキーはアメリカからの国外脱出の申し出を拒み、徹底抗戦を国民に呼びかけた。プーチンのロシア・ウクライナ同一民族説は、ゼレンスキーの毅然とした戦う精神の前に拒絶された。

 プーチンの野望(新ロシア世界の建設)を達成するためにはゼレンスキー政権を打倒しなければならない。が、ゼレンスキーの背後には、アメリカ、NATO諸国が控えている。自由主義と民主主義を標榜する国家は、ウクライナを侵攻したプーチンを激しく非難攻撃し、ゼレンスキーを全面的に支持する姿勢を貫いている。今のところ、プーチンウクライナ侵略の正当性を支持する者は限られている。国際世論は、いかなる理由があれ、先に軍事的侵略を開始したプーチンを〈悪〉と断定し、彼の言い分に冷静に耳を傾けようとはしない。

 国際法に則ればプーチンウクライナ侵攻は違反であり、プーチンがいくら正当化をはかっても民主主義陣営を十分に納得させることはできない。動画でウクライナ関係の番組を見ても、その大半の報道はプーチンは〈悪〉、ゼレンスキーは〈善〉という前提に立っており、善悪二元論を脱却した報道はごく少ない。善悪二元論に立脚すれば、プーチンを〈善〉、ゼレンスキーを〈悪〉とすることもできるわけで、いずれにしても〈戦争〉の根元に迫ることはできない。

 地上波のメディアにしても動画にしても、〈戦争〉の闇に大胆に踏み込んでいくことは許されていない。報道される戦争の現場は、戦車から砲弾が発射される場面であったり、また砲弾によって戦車が炎上している場面であったりする。こういった報道を映像を通して観ている多くの視聴者の頭に、戦車内で死んでいく兵士の苦悶の姿は浮かんでこない。瞬時に、あるいは苦しみもがいて死んでいく兵士や、その家族や友人や恋人の身になって、想像力を豊かに発揮できる者は、戦争などで殺し殺されることの理不尽を強く感じるに違いない。

 戦場で使われる様々な最新式兵器によって、その交戦の現場が報道されても、カメラの視線は戦う兵士の一人一人の姿や、ましてやその内部世界を捉えたりはしない。兵士は戦車と同等の、戦うモノとして扱われている。戦争にかり出された兵士には、人間としての自由意志は奪われている。戦場において上官の命令は絶対であり、それに離反すれば厳しく裁かれるか、ただちに処刑される。戦場において人間は人間であることが許されない。上官の命令に従ってその使命をはたすことだけが求められている。

 戦場においてキリストの教え(汝の敵を愛せ)を全うすることは、自らの死を甘受することなのである。原理的に言えば、戦場において生き延びたキリスト者など一人もいない。無抵抗を信条とするキリスト者は戦争にかり出される前に、兵役を拒否して、法的に処罰されることになる。

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発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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