プーチンと『罪と罰』(連載9) 清水正

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載9)

清水正

 

 ロジオンは思想の自立性を生きていない。ロジオンの〈非凡人〉の思想と、それに基づく犯行はまさに神秘的、デモーニッシュな力の作用によって起こされている。ロジオンが冷静に周到に〈非凡人〉の思想を検証し、同時に自らが〈非凡人〉であるかどうかを考えれば、ロジオンは〈踏み越え〉を回避し得たはずである。が、作者は〈非凡人〉としての能力を備えていない〈弱い心〉の持ち主に、〈非凡人〉としての行動を要求し、しかも彼に重要な思想上の秘密を賦与した。秘密の一つが〈アレ=皇帝殺し〉である。ロジオンは革命家(テロリスト)としての顔を作者によって隠されている。

 ドストエフスキーはイワン・カラマーゾフに端的に「神がなければすべてが許されている」と言わせている。ロジオンの犯罪に関する論文を読んで、ポルフィーリイが読みとったのは革命家の論理、すなわち〈非凡人〉(革命家)には〈すべてが許されている〉ということだった。しかし、ドストエフスキーはロジオンの〈非凡人〉思想の内に隠した革命家の論理を、ポルフィーリイの言葉、およびロジオンとポルフィーリイの対話によって浮上することを恐れた。元政治犯ドストエフスキーは、主人公ロジオンが〈皇帝殺し〉を謀るようなテロリストであることを看破されないために、さまざまな叙述上の工夫を施している。ポルフィーリイはロジオンの〈非凡人〉思想に関して、作者が隠した秘密を暴露するようなことはしない。

 「神がなければすべてが許される」という思想を抱いた者は、神を否定して自らが神になることを願っている。ロジオンは〈非凡人=神〉と見なして、自らの絶対化(神格化)をはかってもよかった。神が創造した地上世界の不条理を是正するために自らが新しき神となってもよかったはずである。そのためには現に地上の世界に君臨している皇帝を殺し、自らが皇帝となる。こういった野望を前面に押し出すためには、ロジオンを屋根裏部屋の空想家の領域に押しとどめておいてはならない。ロジオンを屋根裏部屋の唯一者から革命組織の指導者へと変身させなければならない。ロジオンが革命家として積極的に発言し、行動すれば、彼の抱いた〈非凡人〉思想は明確に読者に伝わったはずである。が、見ての通り、ロジオンは一人のテロリストとしても行動することはできなかった。

 ロジオンは革命家としての言動を封じられ、ソーニャのキリスト者としての道へと踏み込んでいくが、これは作者の指示に従ったまでのことであり、わたしたちはキリスト者ロジオンの具体的な生活を何一つ知らされていない。作者は、「思弁の代わりに生活(命)が到来したのだ」と書いてロジオンの回心を決定付けたが、しかしわたしの内で〈思弁〉は生き続けている。ロジオンは回心してさえ、二人の女を殺したそのことに〈罪〉の意識を感じてはいないことを忘れてはならない。  その意味で、『罪と罰』においては〈革命〉と〈信仰〉の問題は依然として決着がついていない。

 プーチンの場合、現実世界における一国の大統領であり、彼の政治的方針は明確な一義性を備えている。ウクライナ侵攻の理由は様々に解釈されるとしても、侵攻したことは事実である。プーチンはクリミア侵攻から八年後、再びウクライナ侵攻を開始した。当初、首都キエフを短期間の内に征服し、ウクライナ全土を併合しようと謀ったが、ウクライナ軍の徹底的な防戦によって終戦の見込みはつかなくなった。

 アメリカ、NATOEU諸国のロシアに対する経済制裁、およびウクライナに向けての武器提供によって、プーチンが侵攻当初抱いていたであろう短期間での決着は根本的な見直しを迫られている。戦局は予断を許さないが、しかしプーチンの思想信条、政治的野望に揺るぎは見られない。プーチンはロジオンと違って屋根裏部屋の空想家でも観念的絶対者でもない。プーチンは現実の世界において独裁者になり仰せた〈理性と意志〉の人であり、自分の野望を現実に達成できる強大な権力を持っている。途中で引き下がることは、独裁者としてのアイデンティテイを失うことになる。目的を達するためには手段を選ばず、政敵や自分に不利な情報を伝えるジャーナリストを情け容赦なく抹殺することで、独裁者としての盤石の地位を築き上げてきたプーチンは、一度〈踏み越え〉てしまった以上、その道を歩み通すしかないのである。

 

清水正の著作、レポートなどの問い合わせ、「Д文学通信」掲載記事・論文に関する感想などあればわたし宛のメールshimizumasashi20@gmail.comにお送りください。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 

エデンの南 清水正コーナー

plaza.rakuten.co.jp

動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ雑誌には https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

お勧め動画池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェ永劫回帰アポロンディオニュソスベルグソンの時間論などを踏まえながら

人間のあるべき姿を検証する。人道主義ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

www.youtube.com

 

清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

f:id:shimizumasashi:20220130001701j:plain

表紙

f:id:shimizumasashi:20220130001732j:plain

目次

f:id:shimizumasashi:20220130001846j:plain

f:id:shimizumasashi:20220130001927j:plain

 

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。