プーチンと『罪と罰』(連載12) 清水正

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載12)

清水正

 

 ウクライナ戦争はどのような形で終結するのか。プーチンが自らの野望を貫き通そうとすれば、まずはウクライナ全土を侵略し、新ロシア世界に組み込む必要がある。しかしゼレンスキーの抵抗は激しく、ウクライナ国民は自国の領土と家族のために戦う姿勢を強めている。世論の後押しもあってアメリカ、西欧諸国もウクライナに対する武器供与、経済的援助に積極的に取り組み始めた。プーチンが首都キエフ(キーウ)攻略をあきらめた時点から、ロシア軍敗退の兆しが見え始めた。バイデン大統領はウクライナに対して直接的な軍事介入はしないことを宣言していたが、実質的な後ろ盾であることに代わりはない。要するに、プーチンウクライナ侵攻を開始した時点で、アメリカやNATO諸国とも戦闘を開始してしまったことになる。不利な戦況になって追い詰められれば、生物化学兵器の使用、さらに核兵器の使用もあり得るかのような状況にある。

 核兵器の使用は、当然のこととして世界大戦を引き起こすことになる。いくらプーチンといえども核兵器を使用することはないだろうと断言することはできない。なにしろプーチンは八年前にクリミアに侵攻し、わずかな期間でロシアに併合してしまった独裁者である。そして今回、大半の識者がウクライナ侵攻の可能性に否定的な判断を下していたにも拘わらず、プーチンは常識を逸脱した暴挙に出た。いったん戦争になれば、いつでも犠牲者は国民である。ロシア、ウクライナ両国の国民は大きな犠牲を払わなければならない。どんな正当化をはかっても、戦争自体が残虐非道な国家による国家に対する、あがなうことのできない悪事であり、その意味でもプーチンウクライナを絶対に侵略してはならなかったのである。

 ロジオンの〈踏み越え〉に即して言えば、ロジオンは〈アリョーナ殺し〉をしてはならなかったのである。では、なぜロジオンはアリョーナを殺したのか。それはロジオンが〈一つの犯罪〉は〈百の善行〉によって贖われると考えたことによる。プーチンにとって〈百の善行〉は〈新ロシアの建設〉(ウクライナベラルーシ併合→ソ連邦時代の全土奪回→全世界統一)ということになる。〈新ロシア建設〉のためという〈善行〉のためには、戦争による犠牲は許されるというのが独裁者プーチンの論理である。

 さて、ロジオンの〈踏み越え〉で重要なことは〈リザヴェータ〉の出現である。〈踏み越え〉てしまった後に、目撃者としてリザヴェータが現れたことによって、ロジオンは再び斧を振り上げた。つまりロジオンの第一の〈踏み越え〉(アリョーナ=社会のシラミ殺し)は彼が意識するしないに拘わらず第二の〈踏み越え〉(リザヴェータ殺し)を招き寄せるのである。

 ドストエフスキーは『罪と罰』において、ロジオンに第二の〈踏み越え〉しか用意しなかったが、本来この〈踏み越え〉は例えば第三の〈踏み越え〉(母親プリヘーリヤ殺し)、第四の〈踏み越え〉(ソーニャ殺し)……へと続くものなのである。ロジオンの〈踏み越え〉のドラマは、彼の内に秘められた過激な革命思想を封じられていたので、第二の〈踏み越え〉の段階にとどまったが、プーチンの場合は自らの侵略行為の論理的正当性を公表しているので、現実的に強大な壁によって阻止されない限りは目的を達成するまで邁進することになる。

 プーチンは新ロシアの建設を彼の歴史観に基づいて正当化しており、さらに革命家の哲学(革命という絶対正義の実現のためにはあらゆる手段が許されている)をも継承しているので、論理的には揺らぎのない確固たる信念をもって彼なりの〈踏み越え〉のドラマを突き進んでいる

清水正の著作、レポートなどの問い合わせ、「Д文学通信」掲載記事・論文に関する感想などあればわたし宛のメールshimizumasashi20@gmail.comにお送りください。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 

エデンの南 清水正コーナー

plaza.rakuten.co.jp

動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ雑誌には https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

お勧め動画池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェ永劫回帰アポロンディオニュソスベルグソンの時間論などを踏まえながら

人間のあるべき姿を検証する。人道主義ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

www.youtube.com

 

清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

f:id:shimizumasashi:20220130001701j:plain

表紙

f:id:shimizumasashi:20220130001732j:plain

目次

f:id:shimizumasashi:20220130001846j:plain

f:id:shimizumasashi:20220130001927j:plain

 

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。