プーチンと『罪と罰』(連載27)

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載27)

清水正

 

  ロジオンの言葉にさらに耳を傾けることにしよう。

 

 「要するに、これまでのぼくの議論には、ごらんのとおり、かくべつ新しい点など少しもないのです。こんなことは、もう何百ぺんも書かれたり、読まれたりしたことです。ところで、凡人、非凡人の分類については、それが少し気まぐれだってことに、ぼくも異存ありません。しかし、ぼくもあえて、正確な数字にもとづいて主張するわけじゃありませんからね。ぼくはただ根本思想を信じるだけです。その根本思想というのは、こうなんです。人は自然の法則によって、概略二つの範疇にわかれている。つまり自分と同様なものを生殖する以外になんの能力もない、いわば単なる素材にすぎない低級種族(凡人)と、いま一つ真の人間、すなわち自分のサークルの中で新しい言葉を発する天稟なり、才能なりを持っている人々なのです。その細別は、もちろん無限にあるわけですが、この二つの範疇を区別する特質は、かなり截然としています。第一の範疇、すなわち材料は、概括的にいって保守的で、行儀がよく、服従をこれ事として、服従的であることを好む人々です。ぼくにいわせれば、彼らは服従的であるべき義務すら持っているのです。なぜなら、それが彼らの使命なのですからね。そこには、彼らにとって断じてなんら屈辱的なものはありません。第二の範疇はすべてみな、法律を踏み破壊者か、あるいはそれに傾いている人たちです。それは才能に応じて多少の相違があります。この種の人間の犯罪はもちろん相対的であり、多種多様であるけれど、多くはきわめてさまざまな声明によって、よりよきものの名において、現存せるものの破壊を要求しています。で、もしおのれの思想のために、死骸や血潮を踏み越えねばならぬような場合には、彼らは自己の内部において、良心の判断によって、血潮を踏み越える許可をみずから与えることができると思います――もっとも、それは思想の性質により、思想のスケールによって程度の差があります――ここを注意してください。ただこの意味においてのみ、ぼくはあの論文の中で、犯罪にたいする彼らの権利を論じているわけなのですから(この議論が法律問題から始まっているのを、ご想起ねがいます)。しかし、大して心配するものがものはありませんよ。群衆はほとんどいつの時代にも、彼らにこうした権利を認めないで、彼らを罰し、彼らを絞殺してしまいますから(程度に多少の相違はありますがね)。そして、その行為によってきわて公明正大に、自分の保守的使命をはたしているのです。が、ただし次の時代になると、この同じ群衆が前に罰せられた犯罪人を台座にのせて、彼らに跪拝するのです(多少程度の差こそありますが)。第一の範疇は、現在の支配者であり、第二の範疇は、未来の支配者であります。第一の範疇は、世界を保持して、それを量的に拡大していく。第二の範疇は、世界を動かして、目的に導いていく。だから両方とも同じように、完全な存在権を持っているのです。要するに、ぼくの考えとしては、だれでもみな同等の権利を持っているんです。そして――Vive la guerre eternelle(永久の戦い万歳です)もちろん、新しきエルサレムの来現までですがね」

 ここに引用した箇所を何度読んだかしれないが、今回、ロシアのウクライナ侵攻の現実と重ねて読むと、まさにロジオンの〈非凡人〉思想はプーチンのそれを端的に語っているように思える。

     二〇二一年はドストエフスキー生誕二百周年ということで世界各国でシンポジウムや研究会が開催され、ドストエフスキーに関する研究著作も多く刊行された。日大芸術学部芸術資料館では「清水正・批評の軌跡――ドストエフスキー生誕二百周年に寄せて」の展示会が開催された。この年は日大芸術学部創設百周年でもあったので、わたしは記念として二冊の著作(編著『ドストエフスキー曼陀羅――松原寛とドストエフスキー』と著書『清水正ドストエフスキー論全集』第11巻「ドストエフスキーと松原寛」)を刊行した。わたしにとってドストエフスキー論を書き続けることは生涯にわたる揺るぎなき使命としてあるので、これからも絶え間なく取り組むことになる。

 さて、プーチンであるが、彼はこの年の十一月十一日、モスクワのドストエフスキー博物館を訪れ、「ドストエフスキーは偉大な思想家である」とノートに書いている。プーチンドストエフスキーの全作品を読破しているかどうかは不明だが、少なくとも五大作品ぐらいは読んでいると思われる。ロシアの政治家に限らず、政治家や革命家たるもの、ドストエフスキーの『罪と罰』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』ぐらいは必ず読んでおかなければならないだろう。

 日本の政治家の口からドストエフスキーのドの字も出てこないのは、要するに日本のトツプクラスの政治家が世界に通じる国家観や思想を確立していないことの一つの証であろう。北方領土返還を真に願う政治家なら、『悪霊』におけるニコライ・スタヴローギンやピョートル・ヴェルホヴェーンスキーの思想、シガリョフの秘密革命結社からの脱会理由、『カラマーゾフの兄弟』におけるイワンの「大審問官の劇詩」ぐらいは知っておかなければならないが、今やそんなことを期待することはまったくできない。

 プーチンドストエフスキーの偉大さを彼なりに理解しているが、日本の政治家の頭にあるのは経済と権力保持ぐらいのもので、明確な国家観をみずからの言葉で語ることもできない。ロジオンの〈非凡人〉思想に照らし合わせればまさに〈凡人〉の群ということになる。

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プーチン独裁をなぜ国民は許しているのか考えてみた その1。ゴルバチョフエリツィンプーチン、3大統領の1990年〜2000年。

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令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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