プーチンと『罪と罰』(連載20) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載20)

清水正

 

 イワンは「神がなければすべては許される」と言ったが、「神があるからすべては許される」と言っても同じことである。神が不条理な世界を創造したのだから、人間が神にならってどんな不条理なことをしでかしても咎められる筋合いはないということである。

 わたしは必然者であるから、全世界の事象すべてを必然として肯定する。こういった必然者にとって善悪観念を超脱した自然の摂理は素直に許容できる。創世記の蛇が口にした、神が禁じた木の実を食すると善と悪とを知ることになる、ということをそもそもわたしは受け入れない。

 ドストエフスキーは『悪霊』のニコライ・スタヴローギンにおいて善悪観念を磨耗してしまった人間像を描いている。つまり知識を徹底すれば〈善〉も〈悪〉も様々な解釈によってたちまち相対化されてしまうので、それを〈絶対〉とすることができないのである。スタヴローギンがかつて抱いていたという国民心信仰(神そのものについての判断は保留状態にあるが、とりあえずロシアの神は信じる)はシャートフに、神がもし存在しないのであれば自らが神になるという人神思想はキリーロフに、そして革命思想はピョートル・ヴェルホヴェーンスキーに継承させ、彼自身はもはやどの思想をも信じ得ない虚無のただ中にあって、しかもその虚無さえ信じていないという。

 つまりスタヴローギンの例をとっただけでも、神の禁じた木の実は、人間に善悪観念を植え付けるどころか、その徹底的破壊をもたらすということになる。善悪観念を磨耗したスタヴローギンは十二歳の少女マトリョーシカを誘惑し破滅に追い込んだりする。なぜこんなばかげた実験をしたかと言えば、スタヴローギンは沈黙し続ける神を試みているのである。

 要するに、スタヴローギンもイワンも、その前身を探ればロジオン・ラスコーリニコフも、そして『地下生活者の手記』の男も、どんな卑劣な行為の最中にあっても、神を意識せずにはおれないのである。その意味ではドストエフスキーの創造した人神論者は例外なく逆説的な意味において〈キリスト者〉なのである。地上生活者に毒舌の赤い舌を出しながら地下室に閉じこもった淫蕩卑劣な地下男も、二人の女の頭上に斧を振り下ろしたにも拘わらず自らの〈踏み越え〉(犯罪)についに〈罪〉意識を覚えなかったロジオンも、すべて神を意識し、神に反逆し、そのことで神に結びついていたいと願っていた存在なのである。

 人間を試み、裁き、罰する神は、被造物である人間によって試み、裁き、罰せられるのである。ドストエフスキーの人物たちに何かしら拭いがたい不潔さを感じるのは、人神論者たちが神と決別できていないところにある。人神論者に限らず、ドストエフスキーが真実美しい人間、十九世紀ロシアに降臨したキリストを体現させようとしたムイシュキン公爵にも〈汚らわしさ〉を感じる。この男の底知れぬ内部世界には、彼自身にも知られることのない邪悪の固まりが潜んでいる

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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