帯状疱疹後神経痛と共に読むドストエフスキー(連載9) 師匠と弟子

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帯状疱疹後神経痛と共に読むドストエフスキー(連載9)

師匠と弟子

清水正

 マルコ福音書を読んでいてわたしがもっとも興味があるのは、この福音書を書いたのは誰かということである。「マルコ福音書」と言うからには、マルコが作者であることに間違いはないのであろうが、このマルコが近代文学者、たとえばドストエフスキーのような作者と同じような存在と断定できるのかどうかについては、おそらく断定しきれない諸問題を抱え込んでいよう。マルコはイエスの弟子の一人で、十二弟子と同様に、イエスと行動を共にしていたのかどうか。マルコ福音書を読む限り、マルコはイエスの言動および弟子たちの反応を知っている。マルコは彼らの姿を冷静にとらえている。イエス一行と行動を共にしていなければ知り得ない事実や奇跡を描いている。マルコはイエスと弟子たちの後ろに控えて、両目をしかと見開き、イエスの発する言葉を何一つ聞き逃すことのないよう細心の注意を払っている。マルコは機能の優れた撮影器機と録音機器を身につけてイエス一行に、まるで映画(撮影)監督のように付き従っている。今日の優秀なドキュメンタリー映像作家の役割を十分に果たしていると言えよう。

 マルコは自分の思いを発していない。イエスの苛立ちを、弟子たちの裏切りを報告しても、それに対する自分の意見を表明することはない。マルコにイエスを師匠と仰ぐ気持ちがあったとは思えないし、弟子たちの裏切りに激しい憤怒を感じているようにも思えない。マルコは確かに、現代の小説家が備えていなければならない現象学者の判断保留の冷静な視線を備えている。早急に判断を下す前に、事実そのものを客観的に記述しようとする姿勢に貫かれている。

 

 問題はその〈事実〉である。何をもってして〈事実〉と言うのかである。「マルコ福音書」の1章から見ていくことにしよう。

 

  神の子イエス・キリストの福音のはじめ。

  預言者イザヤの書にこう書いてある。  「見よ。わたしは使いをあなたの前に遣わし、

  あなたの道を整えさせよう。

  荒野で叫ぶ者の声がする。

  『主の道を用意し、

  主の通られる道をまっすぐにせよ。』」

 そのとおりに、

  バプテスマのヨハネが荒野に現われて、罪が赦されるための悔い改めのバプテスマを説いた。

  そこでユダヤ全国の人々とエルサレムの全住民が彼のところへ行き、自分の罪を告白して、ヨルダン川で彼からバプテスマを受けていた。

  ヨハネは、らくだの毛で織った物を着て、腰に皮の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。

  彼は宣べ伝えて言った。「私よりもさらに力のある方が、あとからおいでになります。私には、かがんでその方のくつのひもを解く値うちもありません。

  私はあなたがたに水でバプテスマを授けましたが、その方は、あなたがたに聖霊バプテスマをお授けになります。」〔1章1節~8節〕(59)

 

 すでに1章1節からイエスは単なる人の子ではない。マルコは最初の一行において〈神の子イエス・キリスト〉と書いている。この神の子イエスイザヤ書で予言されていた神の〈使い〉ということになる。最初、人々は荒野に現われたヨハネをキリストと思っていたが、ヨハネは本当のキリストは聖霊によってバプテスマを授ける方だと言う。

 ここで言われている〈神〉〈神の子〉〈聖霊〉〈使い〉〈罪〉〈バプテスマ〉と言った言葉が何を意味しているのか。キリスト者でない者は正直言ってチンプンカンプンである。分かったような顔をして素通りすることはできない。

 

 

 ドストエフスキー文学に関心のあるひとはぜひご覧ください。

清水正先生大勤労感謝祭」の記念講演会の録画です。

https://www.youtube.com/watch?v=_a6TPEBWvmw&t=1s

 

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 「池田大作の『人間革命』を語る──ドストエフスキー文学との関連において──」

動画「清水正チャンネル」で観ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=bKlpsJTBPhc

 

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これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。

ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ(2015/11/17)【清水正チャンネル】 - YouTube

 

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