うちには魔女がいる(連載3)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。




矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載3)



 


 らっきょう



五月の終わりにダンボール箱が届いた。
開けてみな、と少し得意げな表情を浮かべる魔女に首を傾げながらも、言われた通りガムテープを剥がして、開封すると。
「………らっきょう?」
ダンボールいっぱいのらっきょうが、みっちりと隙間なく詰まっていた。



鳥取砂丘のらっきょう、ずっと気になってたんだ」
黙々とらっきょうの表皮を剥きながら魔女が言う。なんでも、痩せた土地で育った鳥取砂丘のらっきょうは、生命力が逞しいらしい。栄養も多くて、身が締まってしゃきしゃきとした強い歯ごたえが持ち味だそうだ。
「二年間はスーパーのらっきょうで我慢したから、今年こそはって思ってね」
ポン酢やらマヨネーズやらと、あっという間になんでも作ってしまう魔女は、二年ほど前かららっきょうも漬けている。好き嫌いも特にない私は元々らっきょうをそれなりに好んで食べていたが、魔女が漬けたらっきょうを初めて食べたときは、これが、けっこう衝撃的だった。
すきっとした甘さが舌にやさしく、後味がさっぱりしていて、これならいくらでも食べてしまいそうだ。ついつい箸が進んで、いくらなんでも食べすぎだと魔女に怒られた。つまるところ、ものすごく美味しかったのである。


ダンボールの中には五キロものらっきょうが入っていた。らっきょうは成長が早く、すぐに芽がでてきてしまうので、家族全員で黙々と表皮を剥く作業を行う。
頭とお尻を切り落として、表面の砂の着いた皮を剥いて。たったそれだけの単純作業なのだが、しばらく続けているとツンと鼻をつく刺激臭が気になってくる。らっきょうの分類は、クサスギカズラ目ヒガンバナ科ネギ属の多年草。要は玉ねぎと一緒だ。次第に玉ねぎを刻んでいる時のように目がショボショボしはじめ、涙が止まらなくなる。
「目が痛い! 無理!」
ぼろぼろ泣きながら悲鳴をあげる私に、部屋中に充満する刺激臭をものともしない魔女と祖父がやれやれといった風に肩を竦めた。言っておくがこの二人が規格外なのだけあって、私の涙腺はいたって平均的な造りである。
痛すぎてまともに目も開けられず、最終的にはゴーグルを装着して作業するハメになった。なかなかシュールな光景だ。無駄なものを取り払ってつるりとした大量のらっきょうたちが、蛍光灯に照らされて自慢げにツヤツヤと輝いている。
あまりの重さにあくせくしながらきれいに水洗いし、水に塩を溶かして大きな瓶にらっきょうを漬ければとりあえずひと段落だ。
塩漬けにしたらっきょうの瓶を何度も何度も覗いていたら、魔女に「まだ食べられないよ」と苦笑された。

あとは充分に漬かるのを待って、塩抜きをし、甘酢で本漬けして。
そうしたら、美味しいらっきょうが首を長くして待っている。




※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。