うちには魔女がいる(連載2)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。




矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載2)



 


口に入れればわかること

高校生のとき、家では揚げ物は出来合いのものしか出てこない、と言った友人の言葉にひどく驚いたことを覚えている。
いま考えると、私にとって手作りの料理とは、昔から愛情の秤だったように思う。
自分のためにどれだけ手をかけてくれているのか、面倒くさいことをしているのか。そういうことは、子どもは口に入れれば案外わかってしまうものなのだ。



「なに食べたい?」
休日の午前中、お決まりのように魔女が尋ねる。三六五日ほぼ休みなしで朝昼晩とご飯を作り、しかも変な拘りのある姪っ子と昭和気質の父のせいであからさまな手抜きはできない。し、なにより自分のプライドが許さない。単品料理では味気ないし、惣菜などの既製品はなるべく使わずに手料理で、昨日の残り物なんてもってのほか。そうなってくると、当然次の飯時の献立に頓挫するわけで。
「ねえ、なに食べたい?」
そこらへんの事情をこちらも分かっているから、無い知識を絞り出して思いつく限りのレシピを挙げるのだが、特に長期休みなんかはこの「なに食べたい?」攻撃がそれこそ毎食毎夜と続くのだ。私の数少ない料理の知識なんてあっという間に底をついてしまう。私は食べるの専門であって、作る方はとんと素人なのだ。
困った顔で頬杖をつく魔女をみて、私も困ったなあと眉を下げた。
けんちんうどん……は昨日食べたし、丼って気分でもないし。パスタは明日のランチで食べにいく予定だし、どちらかというとそういうのじゃなくって、もっとこう―――。
ここ最近の献立を思い浮かべてそんなことをぐるぐると考えていたせいか、ついぽろりと口を滑らした。

「なんか……おしゃれなものが食べたい」
私の言葉を聞いてきょとんと目を丸くした魔女は、やがて少し怒ったみたいに、でも震える声で馬鹿じゃないのと言って最後は吹き出してしまった。
言われてみれば確かに馬鹿みたいだ。自分のとんちんかんな答えに私もだんだん可笑しくなってきて、最終的に二人で涙を浮かべてゲラゲラ笑った。の、だが。

それから数時間後、昼時前の忙しない時間帯なはずなのに、画用紙と色とりどりのペンやらマスキングテープやらをガチャガチャと持ち出してきた魔女に、私は首を傾げた。もうそろそろお昼ごはんの用意をしなきゃじいちゃんがうるさいんじゃないのだろうか。せっせと何かを書いているらしい魔女の背中に向かってなにやってるの、と聞いてみる。すると彼女は、自信に輝く顔を上げて弾む声でこう言った。
「あのね、メニュー作ってるの。カフェみたいなやつ」
「……メニュー?」
「おしゃれなもの、食べたいんでしょ?」
そう力強く言い放った魔女に、今度はこちらが呆気にとられ、そしてとうとう吹き出した。
私が言ったことだけど、でも、でも。この人、本当すごい。

魔女特製のメニューには、小洒落た品名と一緒に、彼女の味のあるイラストが描かれていた。
どうしようもなく楽しい気分のまま注文したパンケーキは、すてきなお皿とすてきなプレートに乗って、可愛らしいナプキンときれいに二層に分かれたカフェオレのおまけ付きで出てきた。
子どもは、口に入れれば、入れなくとも、案外いろんなことがわかってしまうものなのだ。
もちろん、いつも通り、魔女のパンケーキは絶品だった。










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