うちには魔女がいる(連載9)


清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

こちらもぜひご覧ください。
早稲田塾が選んだ大学教授」
http://www.wasedajuku.com/channel/good-professor/detail.php?professorid=44
ドストエフスキーファンのブログ「エデンの南」http://plaza.rakuten.co.jp/sealofc/13089/




人気ブログランキングへ←「人気ブログランキング」に参加しています。応援のクリックをお願いします。







ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp


清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。





人気ブログランキングへ←「人気ブログランキング」に参加しています。応援のクリックをお願いします。



矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載9) 


 ドーナツガールは振り向かない


もっさりとしたドーナツが好きだ。
歯で噛み切るときのもさっとした弾力、口中の水分を奪うパサパサ感、ほんのり広がる朴訥とした甘さ。私は、その垢抜けないドーナツの味わいを愛している。

ここ最近の菓子業界に到来したふわふわブームで、カステラもバームクーヘンもみんなすっかりふわふわになってしまった。もちろん、ドーナツも。
私はカステラは牛乳で喉の奥に流し込まないと飲み込めないくらい重いやつが好きだし、バームクーヘンなんかは包丁できれいに切れるようなみっちりと硬い生地のものの方が好きだ。
だってあれじゃあまるでパウンドケーキじゃないか。パウンドケーキが食べたいときはちゃんと然るべき場所にパウンドケーキを買いに行く。しかしそのとき私が食べたいのはカステラであってバームクーヘンであってドーナツであって、決してパウンドケーキではないのだ。



ある日の午後、その日ははるなが泊まりにきていたのもあって、魔女が生地を練ってドーナツを揚げてくれた。
まだあたたかいきれいなキツネ色のドーナツに、白い砂糖をまぶしてお化粧をしてやる時間は、背中がそわそわする。子どもの頃に見た、赤い口紅を塗る母の背中をふと思い出した。
甘いドーナツに合わせて珈琲はブラックで。どうしてあたたかいドーナツとブラックの珈琲が隣に並んでいるだけで、こんなに贅沢な気分になるのだろう。
その幸福な光景ににまにましていたら、はるなに「なんでわらってるの?」とさぞ怪訝そうに聞かれてしまった。子どもの視線は素直で率直で、それでいて手加減がない。

はるなと縺れるように手を洗って、慌ただしく椅子に座っていただきますと手を合わせた。
あたたかくてしあわせの匂いのするドーナツは、私の好みとは違いふわふわとやわらかかったが、今まで有名なショップで買ってきたどのドーナツよりも美味しかった。
テレビに夢中でついつい手を止めてしまうちびのことを定期的に肘で突ついては現実に引き戻す。だって、こんなに美味しいのに冷めてしまったら勿体無い。魔女が作ったのだから冷めたって美味しいに決まってるけど、できたてのドーナツを食べるしあわせを噛み締められるのは、何ていったって今だけなのだ。

なんとなく、本当になんとなく、他愛ない世間話のつもりで、垢抜けない昔ながらのドーナツへの拘りをぽつりぽつりと話した。粉砂糖でお化粧したおすまし顔のドーナツに噛り付きながら。
それをやはりなんとなく、力の抜けた相槌を打ちながら聞いていた魔女が、やがてぽつりと言った。
「味の趣向はそれぞれあるけどさ、何を食べるかより、誰と食べるかの方が大事な気がするよね。こういうのって」

なるほど、確かに。一理ある。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。