うちには魔女がいる(連載23)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載23) 

 いちひめにひめさんなすび
    
    


ウチは根っからの女系である。
母と魔女は二人姉妹だし、続いて私、はるな、と近しい間柄の子どもは決まって女ばかりだ。
そのおかげか、ウチの女性陣はみな非常に逞しい。一番年少のはるなや飼い犬のはなでさえその片鱗を少なからず覗かせているものだから、数少ない男性陣はたまったものではないだろう。男の子と一緒に虫取りやキャッチボールをしたかったとこぼしていたのに、娘、初孫と全員女が続いてしまった祖父が「脱ぎっぱなしにしない!」と魔女に叱られているのを見るたび、ほんのりと切ない気分になる。しかし女が強いほうが家庭は円満、なんて昔から言うから、案外収まりはいいのかもしれない。

そんな女の園である我が家では、女の子の節句であるひな祭りには、毎年潮汁を拵えてちらし寿司を作る。雛人形もあることにはあるが、部屋の半分が埋まるほど立派なものなので、この数年はすっかりお役目御免になってしまった。
キッチンにハマグリの出汁のいい匂いが漂ってきた。コトコトと鍋に火をかけている音を聞くと、無性に安心する。
ちらし寿司のお手伝いは毎年私の役目だったのだが、ここ最近、新しいお手伝いさんが加わった。
「じゃあはるなは卵切ってね」
 気をつけるんだよ、という魔女の言葉にはぁい、と良いお返事をしたはるなは、意気揚々とエプロンを被った。去年まで使っていた、キティちゃんの絵がプリントされたピンク色のエプロンは、あっという間にサイズが合わなくなってしまった。この年頃の子どもの成長には、目を見張るものがある。
応急処置で魔女のカフェエプロンを着けたは良いもののはるなの身丈では足りなかったらしく、ギャルソンみたいになってしまって声をあげて笑った。手ぬぐいを頭に巻き、やる気満々で包丁を握る子どもにハラハラするのは、いつも周りの大人たちの方だ。
「目離さないんだよ!」
「猫の手、猫の手ね。あーほら危ないって」
「もーわかってるから大丈夫だよ!」
あまりにもやいのやいのと口を出すから、お手伝いさんはすっかりご立腹だ。不器用な手付きで、小さな手が錦糸卵を刻んでいく。その横顔は真剣そのものだ。太さがバラバラなのは、ご愛嬌。
寿司桶に炊きたてのごはんを移して、寿司酢を垂らし、しゃもじで切るようにして混ぜる。つやつやと光るお米のなんと美しいことか。酢とお米が一緒になった甘い匂いに誘われて、はながふらふらと近づいてくる。犬のくせに酢飯が好きとは、渋い奴だ。

飾り付けになったら、いよいよお手伝いさんたちの本番だ。
酢飯を大皿に乗せて、はるなが切った錦糸卵をまんべんなく散らしていく。ふんわりと黄色いお布団を被せると、途端に見目が華やかになった。
はるなとあーでもないこーでもないとクスクス笑いながら盛り付けをした。サーモンや海老やタコ、いくらを乗せていく。薄くスライスした酢漬けの蓮根は、食べたときにシャキシャキとした歯ごたえが楽しい。
せっかちな祖父が適当に盛り付けしていたのを目敏く見つけたはるなが「もう! おじはテキトーなんだから!」とかしましく怒っていて笑ってしまう。
やっぱり、我が家の女は強いのだ。

  


※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。