うちには魔女がいる(連載22)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載22) 

 豆まきバトルロイヤル
    

本来であれば節分というのは、福豆を撒き歳の数だけそれを食べ、厄除けを行う慣例行事である。
その年の恵方をむいて太巻きを食べたりなんかして、粛々と一年の平和と実りを願う日。の、はずなのだが。
「鬼は外―――!」
我が家の節分は、もはやスポーツである。

咄嗟に頭を下げてソファの影に隠れると、すぐに頭上からバチバチッ! と破裂音がして無数の豆が降ってくる。背後の窓ガラスに福豆がぶち当たった音らしい。あのおてんば娘はどれだけ全力で豆を投げれば気が済むのだろうか。思わず振り返った先では、テーブルを挟んだ向こうの陣営ではるながハイテンションに飛び跳ねていた。

我が家の節分は、豆撒きが白熱しすぎてバトルロイヤルにまで発展するのが恒例となっている。
毎年毎年、初めはごく普通に和気あいあいと豆まきをしているはずなのに、一体何故こうなるのか。
大抵誰かが途中でふざけ始め(これは大体の場合融くんと相場が決まっている)、誰かがそれに引っ張られ(こちらも大体の場合は魔女である)、その騒ぎが他の面子にも感染しお互い豆を投げて投げられて、と小さな小競り合いを繰り返しているうちに、気がつくと二対二の豆まき団体戦が繰り広げられているのだ。
応接間のテーブルを挟んで向かい合わせになっているソファを壁に見たて、飛んでくる豆をうまく避けつつ攻撃する隙を窺う。
たかが豆粒、と思うことなかれ、これが当たると結構痛いのだ。甘く考えているともろに食らって泣きを見ることになるので、わりあい全員必死だ。いい歳をした大人が全力で投げる小さな豆は、それなりの威力を誇る。

そのうち試合が白熱してくると、それぞれの性格と身体能力の差によりプレースタイルに個性が出てくる。
運動神経も悪くなく、典型的なパワー型で白一点の融くんの投豆は当たれば結構なダメージがあるし、姉さんは力で劣る代わりに思い切りの良さと意地の悪さをフル活用して顔面などの急所を積極的に狙ってくる。そのどちらも持ち合わせていなくていつも誰かの良いカモにされている魔女は、苦し紛れに口いっぱいに豆を詰め込んで噴出するという精神攻撃に出るのだが、結局は良いようにやり返されてボロ負けしている。(融くんに自分から仕掛けて泣かされているのを見るたび、あの人は究極のマゾなんじゃないかと時々本気で思う。)
はるなは豆の補充係だ。落ちている豆を拾っては選手に届けてくれる。大人たちが必死こいて豆を投げ合ってぎゃーぎゃー騒いでいる様をさぞ楽しそうにはしゃいで眺めているのだが、時折自分も気まぐれを起こして無差別攻撃を仕掛けてくるので案外油断ならない。
己の全力投豆に本気で痛がる父親に手を叩いて喜んでいるチビを見て、教育的にこれはどうなんだろうかと思わなくもないが、気を抜くとすぐに飛んでくる豆の大群にそんな些細なことはすぐに忘れてしまう。きっとこんな馬鹿な思い出は、大人になればなるほどじんわりと身に沁みてくるものだろう。たぶん。


げらげら笑い転げながら、今年も我が家は二月三日に豆まきをする。床に散らばった無数の福豆をはなが掃除機の如く黙々と拾い食い、次の日に腹を下すのも例年のことである。
太巻きを食べて、豆を投げて、みんなで集まって。さあ今年も厄を祓いましょう。
来年も、みんなで豆投げて馬鹿みたいに笑っていますように。

「鬼は外――ッ福は内―――ッ!」



  


※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。