うちには魔女がいる(連載19)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載19) 

このめでたき聖なる夜に




昔付き合っていた彼にクリスマスにデートに誘われたとき、私は「クリスマスは家族と過ごすって決めてるから」ときっぱりと断ってしまった。
聖夜は恋人と過ごす日、なんてイメージは未だにしつこく根付いていて、十二月に入ると街は一気にカップル向けのイルミネーションやらプレゼントやらで溢れかえる。それを見てお相手のいない女友達と、半分冗談半分本気のくだを巻いてからからと笑うのは、案外楽しいものだ。
しかし私にとって恋人がいようといなかろうと、昔からクリスマスは、家族と過ごすものなのだ。



まず我が家のクリスマスは、献立作りから始まる。
クリスマスにはいつもの面子に加え、普段は仕事であまり家には来ない融くんや、場合によっては父も集まるのだ。非常勤家族加え、総勢七人。魔女の料理にもついつい気合が入る。
最初は、本当にささやかなホームパーティだったのだ。みんなで普段より少しだけ豪華なごはんを食べて、大人たちはスーパーで買ってきたシャンパンを開けて。それが次の年はもうすこし豪勢になり、また次の年も少しだけパワーアップし……と繰り返していくうちに、最近のクリスマスのパーティはわりと洒落にならないレベルのごちそうが並ぶようになった。どんどん手間と調理時間が増えてゆくパーティ料理を眺めながら、来年は一体どうなってしまうのだろうと毎年密かに慄いている。
「クリスマスなに作ろう……」
クリスマスが近づくにつれ、魔女が頭を抱え始めるのも、もはや見慣れたものだ。

クリスマスパーティ当日は、魔女と私は午前中から料理の下準備にせっせと励む。
茹でたうずらの卵にゴマで顔を付けていく作業は最初は楽しいが、数が嵩むにつれうんざりしてくるのが難点だ。最後の方は顔も見たくなくなる。
もちろん、骨付きチキンも忘れてはならない。むしろ本日の主役と言ってもいいくらいだ。昔はクリスマスらしく、チキンを丸々ひとつ買ってきたこともあったのだが、尻の穴から手を突っ込んで腹の中をジャブジャブと洗うという最初にして最大の難関がなかなか超えられず、ここ数年はめっきりと出番がなくなってしまった。ひいひい言いながらチキンの尻に腕を突っ込んでいた魔女の死にそうな表情を思うと、もう我が家の食卓にチキンの丸焼きが乗ることはないかもしれない。

暖炉に火をくべて、プレゼントとケーキを用意して。
少し特別な日は、いつもみんなでごはんを食べる居間ではなく、大きなテーブルがある広々とした応接間で食卓を囲むのが定番だ。大きくてピカピカのテーブルが、出来上がった料理でどんどん埋まっていく。魔女が頭を悩ませてメニューを考えたパーティ用のごちそうは、やはりいつもより豪華で華やかだ。それからいつも通り、おいしそうだ。
あらかた料理も出来上がった頃に、ようやくモコモコに着ぶくれしたはるな達が我が家に到着する。この面子でクリスマスパーティをするようになった頃から思うとずいぶんと大きくなった子どもは、それでも必ず、うわぁっと豪勢な料理に昔と変わらない様子で目を輝かせる。
そんな顔をされてしまったら、手なんて抜くわけにいかないじゃないか。魔女と顔を見合わせて苦笑してしまった。これは来年のクリスマスも、献立作りには苦労しそうだ。

融くんがウキウキと瓶ビールの栓を開ける。普段は目を光らせている姉さんも今日ばかりは大目に見てくれるから、きっと今日は少し飲みすぎてしまうだろう。明日の朝、愛娘に「お酒臭い!」と怒られる彼の姿が目に浮かぶ。
はるなは応接間のテレビでしか見られない目がチカチカするような色使いの海外アニメに夢中だ。テレビに釘付けのまま左右に揺れる後頭部をいたずらに突く。今年のプレゼントの二十七色入りの色鉛筆が、彼女のお眼鏡にかなうといい。
たとえこの先恋人ができても結婚しても、きっとイエスさまが産まれためでたき聖なる夜は、こうして家族で集まってみんなで魔女の作った料理を囲むことだろう。だって私にとってクリスマスは、昔から、家族と過ごす大切な日なのだ。

料理が全て揃って、シャンパンを開けて。楽しい聖夜の始まりだ。





  


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