うちには魔女がいる(連載20)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載20) 

 ゆくとしくるとし


我が家にとっておせち作りは、その年を締めくくる大事な一大イベントである。
師走も半ばを過ぎると、どこか家の中がさわさわしだして、一日の時間が少しだけ短くなったような錯覚を覚える。そのどこか落ち着かない浮かれた空気が肌を撫でるたび、ああもう今年も終わりだなあともの悲しくなるのは毎年のことだ。

そして、新年を目前に控えた数日間は、ウチのキッチンは立派な戦場と化す。


「お重のもうワンセットどこにしまったぁ?」
「えっ戸棚のところに一緒に入ってない?」
「うっそ卵足りない」
「アッじいが来る前にキッチン片付けといて!」
「あー……手遅れだった……」
やってもやっても終わらない食器洗いに、大渋滞を起こすキッチン。ダイニングテーブルを占領する大量のお重にも、もう慣れた。
基本的に人をもてなすのも食べさせるのも好きなウチの料理人たちは、毎年なんだかんだと親しい友人や親戚のおせちまで一緒に作っては親切にお重にまで入れて持たせてやっている。それが年を重ねるたびにひとつ増え、ふたつ増え……なんてことをやっているうちに、七家庭分のおせちをせっせとこさえるのがここ最近の我が家の年末として、すっかり板に付いてしまった。仕出しじゃあるまいし、と思わないでもないが、その忙しなさに妙な楽しさを感じているのも事実だ。
ウチは生粋の手作り党である。可能な限り手間暇をかけてもなるべく手作りしたいから、おせちの内容も、茹でた海老など、素材をそのまま使うもの以外は全て魔女か祖父のお手製だ。(昆布巻きも栗きんとんも伊達巻も。私は生まれてこの方これらの既製品を口にしたことすらない。)
そんなことをしたら――割合広めに作られているウチのキッチンだって、飽和状態になるのは至極当然のことで。

食欲をそそるあまじょっぱい匂いが部屋をやわらかく満たしている。祖父が火を通している昆布巻きの匂いだ。石油ストーブの上に鍋を乗せて温めているのは、三口あるキッチンのコンロが全て埋まっているからだろう。
七家庭分の量を一気に煮込もうと思うとどうしても鍋が大きくなってしまって、普段は広く感じる机の上も大小様々な鍋ですっかり埋まっている。確かに年々作る量が増えているのは確かだが、祖父がホームセンターでタライに見間違うほどの大きさの鍋を買ってきたときは流石に目を剥いたものだ。
全ての料理が出来上がってお重に詰めるときは、つまみ食いしたい衝動と必死に戦わなければならない。なにかと忙しい年末、一番苦労するのは、見るからに美味しそうなおせちに手を伸ばす許可が魔女から降りるまで、今か今かとおあずけされている時間かもしれない。
家族全員でコタツに入ってチャンネルをぽちぽち回しつつ、冷えた日本酒と年越しそばを食べて、結局我慢しきれず年が明ける前にお重を開けてしまうのも毎年のことである。
切って洗って炒めて煮込んで、時々喧嘩してたくさん笑って、そうして今年も、一年が音も立てずにゆっくりと終わってゆく。




  


※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。