小林リズムの紙のむだづかい(連載101)

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紙のむだづかい(連載101)
小林リズム

【マイナー路線で走りたい】



「好きなお酒は何?」
って聞かれたときに、舌を噛みそうなほど長いワインの名前をさらっと言えるようになりたい。飲んでみても、幼稚な私の舌では奥ゆかしい味わいを察知することなんてできないと思うのだけれど、それでも言いたい。好きなカクテル?うーん、サンブーカ・コン・モスカかな。でもノエチェロ・シェークも結構好き…。「こだわりを持って嗜むお酒に詳しいワタシ」をアピールしたいのだ(ちなみにカクテル名はググッたのでどんなのか知りません。悪しからず)。
 白ワインは冷やして白身魚と。赤ワインは常温でお肉と。この組み合わせって誰が考えたのかしら。本当お料理によく合うわよねぇ…。知ったふうに装ってワイングラスを傾けて、香りを楽しむ、ふりをする。

 ここで登場するお酒は「ビールはやっぱりヱビスだよね」みたいなメジャー路線ではだめなのだ。もっとマイナーで、知る人ぞ知る、ツウなものがいい。カタカナでお洒落風なもの、「君、知ってるねぇ」と言われそうなものをチョイスしたい。と、思っているならお酒の学校に通ったり勉強をすればいいのに、ネットで検索してわかった気になっているあたりがなんとも安っぽくて浅はかなのだった。

 いつだったか、好きなお酒の話題になったときに、片っ端から自分の知っているお酒の名前を並べる人がいた。“好きなお酒”についてだったのに、いつの間にか“知っているお酒”になって「こんなにも銘柄を知ってるんだぜ」というオーラが漂っていて、それが自分と似ていたのでいたたまれなかった。「あぁ、あれなら水割りよりロックっしょ」って、とりあえずロックで飲めるオレすげー的ニュアンスがありありで、強い度数のものを強いままストレートで飲み干すことこそが真の酒飲み、みたいな発想で、そういうことを言ってしまう気持ちが悲しいくらいにすごくよくわかるのだった。
 なにより、ネット検索をして1行目に書いてあるような浅い知識を披露するあたりがもう、あなたは私ですかと言いたいくらいにかぶっていて、私は頭を抱えたくなった。その場しのぎの上塗りはバレてしまうのだ。メッキみたいに簡単に剥がれる。それは、ファミレスで200円とかのプラスチックグラスに入った赤ワインをテイスティングをしているようなもので、本人は「こんなことまで知ってるオレ」と満足しているけれど周りはしらけてしまう。

 だからといって、メジャーなものを「自分の好きなお酒」として紹介するのは悔しい。みんなが知っていて一定の評価を得ているものを「好き」というには、いちいち“好きな理由”を付け加えなければ気が済まない。単に好きっていうわけじゃなくてね、そういう人たちと一緒にしないでね、私はちゃんとこだわりをもってこの酒が好きで、適当に言っているわけじゃないからね…。と、誰も聞いていないのに弁解をしてしまう。この「わかってる感」を出して、わかっていると思ってほしい。
 なんなんだろう、あのどうでもいいような見栄とかプライドって。家にある捨てたくても捨てられないもの、変な色のシャワーカーテンとか、何の役にも立たない置物とか、そういうものみたい。邪魔になって捨てても、いつの間にか似たようなものを買ってきて捨てられなくなってしまうんだよね…。


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