小林リズムの紙のむだづかい(連載27)

連載中の小林リズムの紙のむだづかいは大評判。先日も「小林リズム」さんが話題になりました。定例の飲み会でのワンショットを紹介します。リズムさんのエッセイは中高年の男性と同世代の女性に人気沸騰。日芸出身のエッセイスト群ようこさんに続くエッセイストに成長していただきたい。わたしがコモンコモンをしている日芸マスコミ研究会でも近々、リズムさんに取材の予定。
男性陣の注目の的「小林リズム」
紙のむだづかい(連載27)


小林リズム

【夫の心を取り戻す催眠療法っていう商品】

東京都 Yさん 28歳
夫が浮気をしていることは明らかでした。でも、何度話し合いをしても浮気癖は治らず。毎晩喧嘩をする日々で疲れ果てていました。そんなときに知ったのが、このCDです。初めは半信半疑でした。聞かせるだけで気持ちが戻ってくることなんてあるわけないって…。でも、もしかしたら…。そう思って購入しました。
びっくりしました。まさか、付き合い始めた頃のようにラブラブになれるなんて。夫が結婚記念日に花を買ってきてくれるなんて何年ぶりだろう?あんなふうに喧嘩をしていた頃が嘘のようです。夫に愛されている実感があって、今とても幸せです。

 …というような記事を、大学の頃、御徒町にある小さな会社で書いていた。夫の心を取り戻す催眠療法CDだとか、モテない男が女を口説き落とすためのマニュアルだとか、SNSではずさない出会いマニュアルだとか、聞いただけで眉をひそめてしまいそうな商品をネット販売していた。さらに面白いこと社員が仮名を使って、商品を購入した人からの電話相談に乗っていたりした。「いやぁ、最近は太った人が人気あるんですよ、大丈夫です」「そういうときは、ちょっと強引になったほうがいいんです」と対応しているのは長いこと彼女がいないという男性社員。
 こんな会社だから裏業界の怖い人たちが集まっているのでは…と思うけど、嘘でなくみんな良い人たちだった。「起業したころは、遊園地みたいにみんなが楽しめるものを目指してたんだけどな」と笑うのは、ナンパ術というDVD商品に自ら出演している社長。経費削減が徹底しているのである。そもそも、どうやってその「モテる男になる方法」的マニュアルを制作しているのかというと、朝に社員が5人集まって意見を出し合っているのだった。
「マメな男っていうけど、ちょっとそっけなくしたほうが女性は喜ばない?」
「でも優しい人がいいって女性は言うじゃん」
「いや、優しくしてたのに優柔不断って言われたことある」
「優しくしつつ、決断力はほしいみたいな?」
「それか!」
こんなふうに彼らの経験をもとにした商品だったのだ。なんとも手作り感あふれる…。
 この会社で出していた商品は、たぶん良いとは言えない。騙していると言われたらそうかもしれないし、私も40歳主婦だとか24歳の新妻だとかになりきって嘘をたくさん書いた。人の弱みに付け込んで商品を売りつけている、ことになるのかもしれない。けれど、テレフォンオペレーターのように正確なマニュアル返しではなく、時々迷いながらも「お!よかったじゃないですか、もう少しですよ」なんて笑って電話対応をする社員をみると、なんだか悪いことをしているように思えなくなってくるのだった。

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ドラえもん』の凄さがわかります。
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