随想　空即空（連載80）内村鑑三の最初の結婚と破局を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ#

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有即無　無即有　有無即空　空即空　空空空　正空　（清水空雲）

随想　空即空（連載80）内村鑑三の最初の結婚と破局を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ#

清水正

　離婚の原因に関して政池仁は『内村鑑三伝　再増補改訂新版』（一九七七年十月三十日　教文館）に於いて次のように書いている。

　それが何であるかはわからぬ。しかし内村が娘ノブに語った所によると、タケがある日安中の実家に客に行って帰ってから「私は帰りに高崎の牧師さんの所に泊って来ました」と鑑三に対していやがらせを言った事があるそうである。また内村が宮部に語った所によるとタケは「私はあなたなどと結婚するのではなかった。誰某さんと結婚するのであった」と言ったという。（91）

　なお、筆者が山田幸三郎から聞いたところによると、山田が第一高等学校（旧制）の生徒であったころ、他の生徒たちと共に校長新渡戸稲造（旧姓太田）の宅で新渡戸から次のような話を聞いたことがあるという。すなわち太田がアメリカに渡るので内村の家にいとまごいに行ったら、内村夫妻が横浜まで送って行くといって出て来た。しかし内村は一旦家の外に出てから何か忘れ物に気づいてタケと太田を残して家の内に入って行った。ところがしばらく待っている間にタケは突然太田の手を握ったというのである。そうしてみるとタケはかなりうわ気な女であったようである。（92）

また後年ノブにむかって鑑三はある時、

　　　教会の人たちは、「淫行のゆえならでその妻を出す者は、これに姦淫を行わしむるなり」といってぼくを総攻撃したが、この聖書の真の意義を探るのが、ぼくのアメリカに行った目的の一つで、あちらで研究の結果、「よし、他に男を持たずとも夫を夫とも思わぬ事は明白な姦淫罪である」との解釈を得て始めて心を安んじた、お前の母が貞淑な女であったならば、ぼくは一教会の牧師ぐらいで終ったであろうが、おかげでこんな大きな仕事ができた。しかし彼女に感謝することはできない。

　と語った。これは筆者が内村の離婚のことを調べるために桐生に行ってノブに会った時に聞いた話である。（93）

　政池仁はここで〈高崎の牧師さん〉〈誰某さん〉がだれであったのか具体的に名前を記すのを控えている。これは娘ノブの証言であるから、タケは娘にかなり微妙な事柄に関しても包み隠さずに語っていたと思われる。しかし政池仁も鈴木俊郎と同じく取材の時と場所などを明かしていない。実証的な研究家でありながら、そういった基本的なことを記していないのはなぜなのか、読んでいて不思議である。鑑三の伝記に関してはかなり正確詳細に分かっているが、タケに関しては不自然なほどに分かっていない。生存中のタケに取材を申し込む同時代の研究者はいなかったのであろうか。学問のある賢いタケが鑑三との関係に関して何かまとまったものを書き残していたという可能性を否定することはできない。資料などというものはいつどこから出てこないとも限らないから、タケ側の資料を気長に待つことを忘れてはならないだろう。

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