随想　空即空（連載75）内村鑑三の最初の結婚と破局を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ# 清水正

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有即無　無即有　有無即空　空即空　空空空　正空　（清水空雲）

随想　空即空（連載75）内村鑑三の最初の結婚と破局を巡って#ドストエフスキー＆清水正ブログ#

清水正

　男と女の間の出来事は、その当人同士においてすら不可解なことに満ちており、他人が口出すことなど愚の骨頂とも思えるが、それを百も承知の上でわたしはこの批評を展開している。ひとも羨む相思相愛で結婚し、一ヶ月も経たない内に離婚するカップルもいないわけではない。鑑三の場合だけを特別視する必要もないわけだが、しかし鑑三のタケに対する思いはきちんと押さえておかなければならない。タケとの離婚は鑑三の生涯に大きなトラウマを刻印しているし、この離婚は彼の信仰と愛を考えるうえで素通りするわけにはいかない。

　鑑三のタケに対する思いは肯定と否定の感情が入り交じっている。肯定的な感情を吐露したと思ったその直後に否定的な疑惑の想いが綴られる。たとえば第40信・宮部金吾宛の手紙を読み返してみよう。鑑三は「僕は、真のクリスチャンの敬虔と勇気と女らしさとで、僕と共にすべての重荷を負うことを約束してくれた一つのハートにめぐまれたことを思う時、限りなき感謝の念にあふれる」と書いた後、すぐに「しかし、彼女が僕と共にドンナ風に苦しまねばならぬかを考えると、彼女に対する僕の愛は、僕をして、彼女に対し、僕といっしょにならぬように、とすすめさせる。僕は自分ひとりでこれらの重荷をにないたい」と続ける。ここで鑑三はタケとの結婚に不吉な破局を予知したかのように、重荷を一人で担おうとしている。しかし、これは一種の迷いであって決断ではない。

〈真のクリスチャンの敬虔と勇気と女らしさ〉を備えたタケをどうして拒むことができようか。鑑三はタケのすばらしい肯定的な側面を認めながら、しかし同時に彼女を永遠の伴侶とは思えない疑惑を無意識のうちに抱え込んでいる。余りにも肯定的に語られた言葉の背後には疑惑の悪魔が潜んでいる。〈僕と共にすべての重荷を負うことを約束してくれた一つのハート〉――どんな熱情的な詩人も顔負けするような言葉を記しながら、しかし鑑三はこの〈一つのハート〉と共に生き抜くことに躊躇する密かな感情を捨て去ることができずにいる。

要するに鑑三はタケを信じ切れていない、がそのことを鑑三は自分に認めさすことができずに、自分だけに立派な使命を課そうとしている。鑑三はタケと二人で生活の重荷を背負って生きるか、自分一人で重荷を背負って生きるか、二者択一の前で深く惑っている。この惑い自体が、タケとの〈破局〉を先取りしているが、この時点で鑑三はそのことに気づいていない。鑑三は自分を格好いい立場に置いて惑っており、タケと共に生活の荒波に突き進んでいく覚悟ができていない。

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