随想 空即空(連載33) #ドストエフスキー&清水正ブログ# 清水正

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随想 空即空(連載33) #ドストエフスキー清水正ブログ#

清水正

 

 白鳥の鑑三の信仰に関する〈疑い〉を明白にするために、もう一カ所、『内村鑑三』から引こう。

 

 六つの慰めのうちでは「愛する者の死せし時」が、文章として最も傑れているが、これは筆者の実感が最も痛切であったためであろう。亡妻追憶はいつの世にも力強いものであるのか。「余が愛するものの失せてより、星は光を失ひて夜暗く、鶯は哀歌を弾じて心を痛ましむ――医師余の容態を見て興奮剤と催眠薬とを勧む。然れども何者か傷める心を治せんや。友人は転地と旅行とを勧む。然れども山川今は余の敵なり、哲理的の冷眼を以て死を学び思考を転ぜんとするも得ず、牧師の慰言も親友の勧告も今は怨恨を起すのみにして、余は荒熊の如くになり、『愛するものを余に帰せ』と云ふより外はなきに至れり。」と。ところが、そういう心境から急転直下して、神の恵みによって慰めを得る事になるのである。「余は了解せり宇宙のこの隠語を、此美麗なる造化は我等がこれを得んために造られしにあらずして、これを捨てんが為めに造られしなり、否人若しこれを得んと欲せば、先づこれを捨てざるべからず(馬太伝十六章廿五節)誠に実に此世は試練の場所なり、我等意志の深底より、世と世のすべてを捨去つて後、始めて我等の心霊も独立し世も我等のものとなるなり」と云っている。成程これは宇宙の隠語である。そしてこれが、人間如何に生くべきかの極地であるように、内村は一生を通じて折に触れては云っている。私がこの書をはじめて読んだ少年時代に、こんな六ケしい隠語が分る訳はない。

 「これを得んとすれば先づこれを捨てざるべからず」

  七十年の長い人生を渡って来た今日の私も、こういう意味深長らしい宇宙の隠語は会得されないのである。こういう格言も理屈をつければつくものであるが、勿体ぶった廻りくどさは、むしろ厭うべきである。愛する者に死別した悲しみが、そういう理屈で無造作に慰められる筈はないので、慰められたつもりで、一時の気休めとしているくらいなものである。(352~353)

 

  内村鑑三の使っている〈宇宙の隠語〉をどのようにとらえるか。鑑三はキリスト者の立場を絶対化して〈宇宙の隠語〉を使っているので、これはキリストの言葉に忠実に従う者の言葉である。白鳥が改行して記した「これを得んとすれば先づこれを捨てざるべからず」、〈宇宙の隠語〉を一言で言えばこれに尽きる。自分の命に執着すれば命を得ることはできない、自らの命を捨てることによってしか命を得ることはできない。言い方を替えれば、キリストの言葉に従って自らの十字架に架かって死ねば、永遠の命を得ることができるということで、謂わばこれはキリスト教の秘儀でもある。白鳥はそれを知っか知らずか「七十年の長い人生を渡って来た今日の私も、こういう意味深長らしい宇宙の隠語は会得されないのである」と言い切っている。白鳥の〈言い切り〉はそれをそのまま信じることは危険である。ここで白鳥は鑑三の言う〈宇宙の隠語〉を十分に理解したうえで「会得されない」と書いている。鑑三の「愛する者の死せし時」を読めば、誰でも鑑三の悲しみ、怒り、嘆き、絶望を感じるだろう。鑑三は愛する妻を失った、残された者の魂の戦慄を率直に語っている。わたしはそこにヨブの嘆きと同質のものを感じた。白鳥も同じであったろう。鑑三の魂の震えが伝わってこない者は、鑑三のこの書を読む資格はないのである。鑑三自身が『キリスト信徒のなぐさめ』(岩波文庫)の〈自序〉で「心に慰めを要する苦痛あるなく、身に艱難の迫るなく、平易安逸に世を渡る人にして、神聖なる心霊上の記事を見るも、唯人物批評又は文字解剖の材料を探るにとどまるものは、些少の利益をもこの書より得ることなかるべし」と記している。

 白鳥がここに記された人物でなかったことは断言してもいい。白鳥は小説家で批評家でもあったが〈平易安逸に世を渡る人〉でもなければ〈唯人物批評又は文字解剖の材料を探るにとどまるもの〉でもなかっただろう。しかしそれにしても、〈宇宙の隠語〉に付された〈こういう意味深長らしい〉という嫌みを含んだ形容や、〈勿体ぶった廻りくどさ〉などという言い方には毒がある。もし鑑三が白鳥のこういっ言葉に接したら内心穏やかではいられなかったに違いない。しかし白鳥のこういった棘のある言い方は、彼自身に向けられた刃でもあったと思える。青春期に鑑三の講演に心酔し、鑑三の著作を耽読し、キリスト教の洗礼を受けた白鳥は体験的に〈宇宙の隠語〉を知っていたはずである。知っていたはずの棄教者白鳥が、七十歳になっては鑑三の言葉に〈勿体ぶった廻りくどさ〉を感じていることに注意しなればなるまい。白鳥が「愛する者に死別した悲しみが、そういう理屈で無造作に慰められる筈はないので、慰められたつもりで、一時の気休めとしているくらいなものである」と書いているのは、彼が鑑三に劣らず〈愛する者に死別した悲しみ〉を知るものであったこと、そしてその〈悲しみ〉は〈理屈で無造作に慰められる筈はない〉ことを知っており、さらに〈慰められたつもり〉でも、それは〈一時の気休め〉でしかないことを体験的に知っているということなのである。

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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