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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載16)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 さて、肝心の主人公ロジオンはどうだったであろうか。ロジオンもまたラズミーヒンと同様、〈女たらし〉に間違いはないが、ただ女に対する好みは異なっている。描かれた限りで見れば、ロジオンの最初の女は、アパートの女将、未亡人プラスコーヴィヤの一人娘ナタリヤである。ナタリヤは不具者(この日本語は差別語として使用されなくなっているが、ロシア語のуродには宗教的聖性の意味が込められている)であったが、ロジオンはペテルブルクに上京してすぐに彼女と婚約している。ナタリヤは一年前に流行の腸チフスに罹患して死んでしまったが、ロジオンの女の好みはナタリヤに体現された〈урод〉(聖性を秘めた異形の者)に集約されている。

 ところで、修道院への出家を願っていたナタリヤとロジオンの関係をきれいごとの次元だけで見るわけにはいかない。〈女たらし〉のラズミーヒンに言わせれば、ナタリヤには〈いいところ〉があったということになる。これは形而下なことを言っているので、ラズミーヒンはロジオンとナタリヤの特別の性的嗜好(俗的な言葉で言えば変態)をほのめかしているのである。性的側面に関するドストエフスキーの描き方は暗示的な言葉や世間に流布している噂話などを利用することはあっても、その現場に直接カメラを持ち込んで誰にでもわかるように映し出すことはない。したがってテキストの表層をスケーティングしているだけの読者には、描かれざる〈性的場面〉を見ることはできない。

 ロジオンは〈四日目〉、すなわち殺人を犯した翌日、警察署からの呼び出しに応じる。一度は逮捕を覚悟するが、呼び出しは女将プラスコーヴィヤからの借金の件であった。ロジオンは一気に不安と恐怖から解放され、訊かれもしないのにナタリヤとの婚約について次のように語る「ぼくは最初から、主婦さんの娘と結婚しようと約束したんです。もっとも、それはぜんぜん自由な口約束だったんですが……その娘は……もっとも、ぼくはその娘が気に入ってたくらいなんです……もっともほれていたわけじゃありませんが……一口にいえば、若かったんですね。いや、つまり、ぼくが言いたいのはこうなんです。主婦さんはそのために、当時多額に信用貸しをしてくれたので、ぼくは多少その、気楽な暮らしをしていました……ぼくはじつに軽はずみだったんです」と。

 大げさな言い方をすれば、このロジオンのセリフは〈非凡人〉の思想や〈アレ〉以上に重要と言ってもいい。ここでロジオンは婚約までしたナタリヤにたいして別に惚れていなかったと明言している。しかもロジオンは悪知恵のはたらく確信犯のように、婚約はあくまでも〈自由な口約束〉(つまり婚約不履行でも法的な裁きを受けることはないということ)であったことを強調している。

 これではロジオンは最初から女将からの信用貸しをあてにして、世間の男たちがだれも近づかないような不具のナタリヤを利用したとしか思えない。否、もう一つ理由があった。それは下宿の娘と結婚の約束をすることで、ただで性的関係を結べたということ、さらにナタリヤにはロジオンの性的嗜好に適う〈気に入っていた〉点があったということである。

 ロジオンは街裏の娼婦たちがたむろするいかがわしい場所に通っていた節がある。声をかけたドゥクリーダという女に、ロジオンは六コペイカをねだられて気前よく十五コペイカ(五コペイカ硬貨三枚)を与えている。この時は何もせずにその場を離れているが、ナタリヤの死後、ロジオンが何度かこういった娼婦街に、こういった場所に相応しい目的を遂げるために足を踏み入れていたにしても別に不思議ではない。

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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