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モーパッサン『ベラミ』を読む(連載14)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 モーパッサンはジョルジュの目にカメラを張り付けたような視点からパリの町を映し出しているが、そのカメラがジョルジュの内部世界に向けられることはない。従ってカメラは別にジョルジュの目に張り付けられる必要がないとも言える。ところが『罪と罰』のロジオンの場合は、彼の目に張り付いたカメラは外界に向けられると同時に、しょっちゅう彼の内部世界にも向けられている。読者は歩くロジオンの眼差しでペテルブルクの街を眺め、同時に彼の内部世界をのぞき見る。比重はどちらかと言えば、外界よりはロジオンの内部世界に向けられているので、当然のこととして読者はまるで自分がロジオンと一体化したような気分になって作品を読み進めることになる。

  一人称で書かれた『罪と罰』は、カメラがロジオンの目から離れて客観的な視点に立つことが希なので、読者はよほど気をつけていないとロジオンにからめ取られることになる。わたしは若い頃、まるで自分がロジオン・ラスコーリニコフであるかのように思い、殺人事件こそ起こさなかったが、心の底からソーニャを求めたりもした。『罪と罰』の読者の心を虜にするその叙述力は悪魔的でさえある。ついでに言っておくが、『罪と罰』はロジオンの目に内外世界を映し出すカメラを取り付けたばかりか、ロジオンの鼻には臭覚機器を、耳には聴覚機器を取り付けている。読者はロジオンの全感覚器官を通してペテルブルクの異常に暑いペテルブルクの街を、独り言をつぶやきながら歩くことになる。

 まさかジョルジュはロジオンのように独り言などつぶやきはしないだろう。ロジオンには彼に取り憑いた悪魔の観念とも言うべき〈アレ〉が存在したが、ジョルジュには陰鬱な独り言を促すような悪魔の囁きはない。この色男、美男子ということだけが唯一誇れるようなジョルジュには、彼の実存を脅かすような観念・思想は無縁である。ジョルジュはただただ貧乏な〈美男子〉として、今、蒸し風呂のようなパリの夜を特別な目的もなく歩いている。ジョルジュには、ロジオンの〈アレ〉と同じような、実存の危機を招くような〈目的〉は遂に見いだせないままに終わるのであろうか、それとも……。

 モーパッサンはパリの夏(六月二十八日)を歩くジョルジュの眼差しにカメラを張り付けて、彼の見る光景を映し出す。人間の眼差しは外界のすべての事象を記憶にとどめるわけではない。見たいものを選別し、その中から特に印象深かったものを記憶に残す。蒸し風呂の夜を歩くジョルジュは休んで一服したいと思っているからこそ、藁椅子にまたがってパイプをくゆらす門番の姿が目にとまるのである。次の、帽子を脱いでむき出しの額をさらして歩く疲れ切った通行人はどうだろうか。ジョルジュは伊達男だから、どんなに暑く、疲れても、帽子を手に持ったり、上着を脱いだりはしない。蒸し風呂の夜をやせ我慢して歩き続けるジョルジュと、本能に素直にしたがって歩く通行人のこの対蹠的な姿が面白い。

 さて、先に引用した箇所だけでも、移動するジョルジュの眼差しがとらえた光景であることが分かる。モーパッサンはある地点に固定されたカメラで歩くジョルジュを映し出しているのではない。よくよく注意して読めば、ジョルジュは暑い蒸し風呂の夜を休み休みして(少なくとも一度は立ち止まっている)歩いていることが分かる。歩きながら目にとどめた光景と立ち止まってみた光景を作者はきちんと描き分けている。

 

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