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モーパッサン『ベラミ』を読む(連載12)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 すでにお気づきのかたもあろうかと思うが、わたしは今回、作品を現在進行形で読み進め、そのつど立ち止まりながら批評を展開している。ふつう批評や研究は、対象とする作品を読み終え、その作品に関する先行研究を読破した上で、自分独自の見解を示さなければならないとされている。が、わたしはそういった批評や研究をする気はない。テキストに対して、いつでもわくわくはらはらする新鮮な気持ちで立ち向かっていきたいと思っている。これは一つの実験的な批評であり、今後どのような発見があるのか、まずは自分自身がいちばん楽しみとしているのである。

 わたしは今回『ベラミ』の邦訳を何種類か用意し、とりあえず日本語だけで作品世界に肉薄していきたいと考えている。同一言語でも訳者によって訳語はことなる。原典に当たればすぐ解決がつくような訳語もあるだろうし、そうは簡単に行かない場合もある。先に〈百スー銀貨〉に言及したが、木村庄三郎(角川文庫)は〈五フラン金貨〉と訳している。今のところ〈百スー銀貨〉の存在を確かめていない。〈20スー〉が〈1フラン〉に相当するということで〈百スー銀貨〉が〈五フラン金貨〉に化けても不思議はないが、もし原語で〈百スー銀貨〉と書かれていたなら、なぜ作者モーパッサンは現実に流通していない硬貨を敢えて作中に出現させたかが問題となるだろう。もっとも、ネットで調べた範囲では〈百スー銀貨〉の存在はない。もしあったとすればそれはそれで面白い。わたしの常識で推測すれば、〈百スー銀貨〉は〈五フラン金貨〉ないしは〈五フラン銀貨〉の別称として使われていたのかも知れない。

 まずジョルジュの帽子から見ていこう。田辺貞之助訳〈かなり古びたシルクハット〉は〈かなり色のさめたシルクハット〉(杉捷夫)、〈色のあせたシルクハット〉(木村庄三郎)などと訳されている。そうとう使い古した帽子にはちがいないが、ジョルジュはそれを新品で購入して、長いあいだ自分の頭にのせていたものなのか、それとも古着屋で安く入手したものなのか、そういった事情は分からない。

 帽子と言えば『罪と罰』のスヴィドリガイロフやピョートル・ルージンもまた、〈紳士〉に相応しいシルクハットを被っていた。ラズミーヒンの被っていたのはありふれた学生帽で、注目すべきはロジオンの帽子である。ロジオンの被っていたのはドイツの青年紳士が被るようなチンメルマン製の山高帽子である。年金で暮らしをたてている貧しい母親からの仕送りがなければ学生生活を送れなかったロジオンが、よりによってドイツ製の山高帽子を購入している。帽子だけではどう見ても不自然で調和しないから、外套、ズボン、靴まで新調して、まるで青年紳士気取りでペテルブルクの街を闊歩していたかも知れない。

 ロジオンは『罪と罰』の読者に人類の全苦悩を背負ったような文学青年風のイメージを強く与えるが、何度も読んでいくうちに実はこの青年、かなり軽佻浮薄なところがあるなと思わざるを得なくなる。母親や妹の苦労を考えれば、ドイツ製の山高帽子をかぶって気取っている場合ではなかろうというわけだ。〈非凡人〉の思想などを書いたりしゃべったりするものだから、ロジオンという青年、なかなか思慮の深い青年だと勘違いしてしまうが、少し冷静になって考えてみれば、斧を胸懐に隠し抱いて、高利貸しの老婆を殺しにでかけるような青年がまともであるわけがない。ロジオンの〈踏み越え〉(犯罪)は、虚栄心の強い、軽佻浮薄な青年に仕掛けられた悪魔の罠とさえ言ってもいいのである。

 ジョルジュの色あせた古いシルクハットも、それを頭に斜にのせる当人の〈虚栄心〉をせつなく反映している。救われるのは、色あせたシルクハットにジョルジュがまったく気落ちしていないことだ。ジョルジュは貧しいなりに、おしゃれを楽しみ、彼なりのダンディ振りを存分に発揮している。獲物を瞬時に一網打尽にする、女たらしの〈投網のまなざし〉は健在である。

 作者はこの女たらしの美男子に〈一そろい六十フランの安物〉(田辺訳)を身につけさせる。この訳語は漠然としていて具体的イメージを喚起しないが、木村訳の〈上下で六十フランの安服〉、杉訳の〈六十フランの三つ揃い〉になるとかなり具体的である。仮にジョルジュの身につけている服を上着、チョッキ、ズボンの〈三つ揃い〉とみた場合、〈六十フラン〉が安いと言えるのかどうか、現代日本人の感覚からすると判断しにくい。〈1フラン〉を〈2000円〉とみれば十二万である。十二万を安いと見るか、高いと見るか、それとも妥当と見るか、なかなか判断は難しい。考えられるのは、この〈三つ揃い〉が新調ではなくて、古着屋あたりで安く入手したということかも知れない。

 いずれにせよ、ジョルジュは〈古物〉でも粋に着こなすダンディで、女たちの眼差しを自分に向ける手練手管に長けた女たらしであり、彼は自分が女から好かれる〈優美さ〉を備えていることをよく自覚しているのである。石原裕次郎軍団の男優たちの誰かひとりでも思い浮かべたらいいかも知れない。

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