プーチンと『罪と罰』(連載16) 清水正

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載16)

清水正

 

 〈理性と意志を賦与された旋毛虫〉に感染した者たちはお互いに殺戮を繰り返し、結局、人類は絶滅する。と思いきや、ドストエフスキーは何人かは生き残ったと書いている。それも〈悪夢〉を語る最初に「いくたりかの、きわめて少数な選ばれたる人々をのぞいて、人類はことごとく滅びなければならなかった」と書いている。さらにドストエフスキーは〈悪夢〉の最後の方で、この〈選ばれたる人々〉を〈選ばれたる純なる人々〉と書き直し、彼らは〈新しい人の族と新しい生活を創造し、地上を更新し、浄化すべき使命〉をおびていると書いている。

 謎は多い。まず、誰が何のためにこの〈旋毛虫〉を賦与したのかである。〈旋毛虫〉が単なる〈生物〉ではなく〈精霊〉(дух)であるということは、この〈精霊〉が単に偶然的に〈アジアの奥地〉に発生したというよりは、やはり神が創造し、人間の頭脳に賦与(感染)したと見た方が納得がいく。人間に〈理性と意志〉の精霊を賦与するとどうなるか、その残酷な実験を試みたのではないかと思える。

 〈理性と意志〉は神の存在を否定し、それに代わって〈科学〉(二×二=四)を信奉することになる。二×二=四(数学、自然科学、化学、医学)を信奉する人々は神から離れ、自らが神に代わって世界を統治し支配することができると思うようになる。神は、人間のこの傲慢さに容赦のない罰を与える。それが〈理性と意志〉を賦与された〈旋毛虫〉の正体である。〈旋毛虫〉が微細な〈生物〉であれば、やがて科学(医学)がその正体を看破し、治療することができる。現代の蔓延するコロナに対して、全世界の二×二=四に基づく知識人たちが、競ってワクチン開発に臨んでいるが何よりの証左である。

 〈理性と意志〉に感染した者たちが即発狂状態に陥るわけではない。むしろ〈理性と意志〉は合理的に社会を発展させ、民族間、国家間の争いを回避し、相互の発展を築き上げることができる最大の力とさえ思えたであろう。が、〈理性と意志〉を賦与された者が、自分たちの考え方を〈絶対〉と見なした場合、事情は一変する。プーチンの〈正義〉とゼレンスキーの〈正義〉が頑なに自己主張を撤回しない限り〈戦争〉は止むことはない。まさにロジオンの〈悪夢〉のシナリオ通りの展開と結果を招くことになる。

 さて、破滅を免れた〈選ばれたる純なる人々〉とはいったいどういう人々なのであろうか。また彼らに協力して、多くの血で汚されたこの地上世界を更新し創造する〈新しい人の族〉とはいったい何を指しているのであろうか。

 わたしはかつて、生き残った何人かの〈選ばれたる純なる人々〉の内に、愛によって復活したソーニャとロジオンをイメージした。また〈新しい人の族〉とは未だ〈理性と意志〉の〈旋毛虫〉に侵されることのなかった地上世界の或る部族と言うよりは、〈神の国のひと〉というように解釈した。生き延びた〈選ばれたる純なる人々〉は〈神の国のひと〉(新人)の協力なくしては地上を更新し創造することはできないのだと思ったのである。

 それにしても、ドストエフスキーのロジオンの〈悪夢〉の描き方は肝心要のところで微妙に曖昧である。彼は〈選ばれたる人々〉に関して「しかし、だれひとりとして、どこにもそれらの人を見たものもなければ、彼らの言葉や声を聞いたものもなかった」と書いて、そのことについてなんら説明していない。

 

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