小林リズムの紙のむだづかい(連載82)

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紙のむだづかい(連載82)
小林リズム

【かゆい場所なんて言えないそこは恥部 脳内はメリーゴーランド 後編】



 最近の美容室はサービスが良すぎる。シャンプーが終わったあととか、髪の毛を染めてラップをかけている間だとかに、「マッサージしますね」と笑顔で言われて、肩だとか頭だとかを軽快にもみほぐしてくれるのだ。これは美容室サバイバルタイムのなかでも最高に難関なハードル。このときほどリアクションに困ることはない。目をつぶったほうがいいのかな…でも寝てると思われるのもちょっとなぁ…。表情は軽く微笑むくらい?無表情だと失礼だから気持ちよさそうにしたほうがいいよね、でも、気持ちよさそうな顔を公開するのもなんだか気が引けるし…。そんなふうに悩んでいると、へらへらと薄笑いを浮かべながら半目の状態で「マッサージうまいですね」とエールを送る変質者にしかならないのだった。そんな自分を鏡越しで見るのも苦痛だし、頭に巻かれたターバンのおかげで顔がまるまると露出されているのも苦痛。癒してもらうはずのマッサージが、逆に疲れてしまう。

 やっと切り終えてもらい、ドライヤーでかわかしてもらったあとの最終チェック。「こんな感じになりました。いかがでしょう?」という美容師さんのドヤ顔を前に「うわー、すごーい!信じられない!嬉しい!」と歓喜に満ち溢れたリアクションできるのは、数々の苦難を乗り越えてふりしぼった最後の力。これで終わったという喜びと、ホッとした安堵の気持ちからくる。こんなにもパワーをふりしぼって施術してもらったヘアスタイルは、いつもと大して変わらず、そういうふうに注文した自分のことなんてまったく忘れて、いつも「こんなもんか」とがっかりするのだった。

 そうやって美容室へ向かうときは前もって心構えをし、厳重な体制を心得ているのに、70歳の祖母が「黒木瞳みたいな感じで」と美容師さんに頼んでいると聞いて、それはもうショックだった。なんたる堂々とした自意識。絶対的に他者のものにならない自分の目線から見た確固たる自意識。人にどう思われようと関係ない、むしろ他人の目線なんてものは祖母のなかには存在しない、自分がしたいのだからそうするという圧倒的な自信。ひたすら我が道を走り続ける祖母に、ちょっとだけ尊敬のまなざしを向けるのだった。