小林リズムの紙のむだづかい(連載81)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

http://www.youtube.com/user/kyotozoukei?feature=watch

紙のむだづかい(連載81)
小林リズム

【かゆい場所なんて言えないそこは恥部 脳内はメリーゴーランド 前編】

 美容室が怖い。同じ年齢くらいのお洒落な女の子たちが「サロン行ってきた〜♪髪ツヤツヤで嬉しい☆」というコメントと共に、美容室の鏡越しに洗練されたモテそうな美容師さんと写っている写真をSNS上でアップしていたりするのを、別世界のように眺めている。心から楽しそうに美容室にいる状況だとか、どのタイミングで写真を撮るのかとか、まるで想像ができない。自意識をこじらせまくっている私にとって、美容室に行くという行為は数学の試験を受けるのと同じくらいのプレッシャーを感じるのだった。

 最初の難関は「今回はどのようにされますか?」と質問されることからはじまる。このシンプルで当たり前の問いかけへの返答に、いちいち考えてしまう。思い切ってイメチェンだとか、ばっさりとショートカットとか、そんな大それたものは考えていないものの、「色っぽい感じ」とか「小顔に見えるような形」というささやかな要望はある。でも、それが言えない。ただ「うーん、色っぽい感じで、顔が小さく見えるのがいですねー」と言えばいいだけなのに、美容師さんの「かしこまりました」の笑顔の裏に隠された失笑を勝手に想像してしまう。「色っぽいとか。その顔で(笑)」とか「小顔とか言うまえに痩せろよ」とか、思っているかもしれないと考えると、無難に「夏なので軽い感じでお願いします」としか言えなくなる。
 まして芸能人の切り抜きを持って行って「こんな感じで」と伝えるなんて、考えられない。「え、なに?北川景子めざしてんの?その顔で。笑」とか「石原さとみ!どんだけ現実見てないんだよ。笑」なんて思うと、もう帰りたくなる。

 第二関門は、髪を洗ってもらうとき。顔にかぶせる白い布がズレたときに言えない。半分だけ目が出ている状態が気まずくて、顔の筋肉をフル活動させて必死に布の位置を戻そうとする、ささやかなドキドキ。口を曲げて布を移動させている状態で美容師さんが気づいて布をペラッとめくられたりしたらどうしようとか、鼻息で布が飛んで行ったらどうしようとか、考えれば考えるほど緊張する。結局目をつぶって、できるだけ呼吸をしないほうがいいという結論にいきつくのだけど、途中で「かゆいところありませんか?」とか「温度はちょうどいいですか?」なんて聞かれたりするから息も絶え絶えだ。そして、かゆいところがあろうが温度がぬるかろうが、どっちにしても言えない。かゆい場所を誰かにかいてもらうという行為が、まずもう無理なのだった。