小林リズムの紙のむだづかい(連載99)
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紙のむだづかい(連載99)
小林リズム
【自意識こじらせたオジサン 後編】
「あの…実は僕はすごい借金があって死のうと思ったことがあるんです。原因はお店の女性に相当入れ込んでしまって…」
なんの脈絡もない突然の身の上話。しかも、かなりヘビー…。ただでさえ居心地が良いとは言えなかった状態なのに、追い打ちをかけるようにして場の空気が凍り付く。みんながドン引きしているのがわかる。この場でどうリアクションしろというのか…。けれど、彼は気付かないでどんどん語り出していく。あぁどうしよう、この人相当ひどい自意識の複雑骨折してる…。
「そうなんですかぁ…。お気の毒ですね…」
重い空気から逃れたくてとりあえずリアクションをした。早く話を切り上げてくれるように願うも、ヘタに同情してしまったために彼の語りはヒートアップして留まることを知らない。
「だから僕は人を、主に女性を信じられないんです…。それでうまくしゃべれなくなってしまって、友達もいなくて…だからこうやって…」
気づくとオジサンは私に向かってしゃべっていた。というより、他の人はオジサンの話をすべて私に丸投げし、わいわいと楽しんでいるではないですか。え?ちょっと待って、置いていかないで…。とチラチラと視線を送ってもみなさん気づかないふりがお上手で。もう完全に終わった。私の今回の交流会はこのオジサンの話を聞くことに徹するしかないのだ。なんてことだ。早く家に帰りたい…。
結局その日は初対面のオジサンの人生の歴史(救いようがないくらいに重い)をひたすら聞き続け、読書なんてまったく関係ないちっとも楽しくないイベントは幕を閉じたのだった。
オジサンは別れ際に私にこう言った。
「みなさん仲良くなってますね。やっぱり僕はだめだなぁ…」
あぁ、あなたがうまくいかないのは、自意識をこじらせすぎているからなのよ。相手の立場や気持ちを考えずに自分押しをするからいけないのよ。弱みとか悲しいバックグラウンドを打ち明ければ人とわかり合えると思っているその安易さがだめなの。わかってもらいたい願望が強すぎてちっとも他人を受け入れる隙がないじゃない。…とは言えず。類は友を呼ぶってこういうことを言うのかもしれないなぁと思うのだった。
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