星エリナのほろよいハイボール(連載1)
こたびに出る
星エリナ
旅に出たい。北海道に行くのもいい。海外もいい。そうだ、京都に行こう。なんて口から軽く言うけれど、旅には時間もお金もかかる。それでも大学生のうちは自由に旅に出ることができる期間だと思う。実際私はたくさん旅に出たと思う。大学一年の夏には一人で北海道へ行ってみた。それからもちろん海外にも行った。友達と熱海や草津、大阪へ旅行もした。美味しいものを食べたりスキーをしたり、たくさん楽しいことが待っている。しかし、その旅を楽しいものにできるかどうかは、計画がうまくたてられるかにかかっている。自分たちで計画することはとても大変だった。なかなか好みが合わなかったり、時間をうまく使えなかったり。面倒だからといってタクシーばかり使ってはお金ももったいない。だからといって計画を立てないと旅があやふやなものになってしまい、つまらなくなるだろう。何時の飛行機に乗ってどこのホテルに泊まってあの山に登って。きっちりかっちり計画をたてるのもいいけれど、たまにはふんわりした時間を過ごすのはどうだろう。
旅、というには小さすぎる。だから小旅(こたび)。小さなデジタル一眼レフカメラとスケッチブックを持って歩くだけ。路地裏の猫を撮ったり、道端に咲いているたんぽぽを描いてみる。計画なんてそこにはない。私は今、そんなこたびに出たい。
はじめての小旅は地元川越だった。地元のことはよく知っているつもりでいたけれど、知らないことばかりだった。いつも通るクレアモールという商店街から細い道へ曲がるだけで知らない世界がそこにはあった。白いレンガが特徴的な雑貨屋さん。日本人とインド人夫婦が経営しているカレー屋さん。ウッドハウスのようなカフェ。良い香りのするベーグル専門店。森の匂いがする神社でたくさん写真を撮った。昔ながらの街並みには外国からの観光客も来るほど有名になっていたようだ。
今私が小旅したい場所は神楽坂だ。東京都新宿区でありながら路地や横丁がある。華やかな大都会とはまた違った空気を持つ神楽坂。神楽坂通りは早稲田通りの一部で、ゆるりとした商店街だが、横道がとても多い。その一つが神楽小路。居酒屋や和菓子屋が立ち並ぶこの小路は昭和モダンな雰囲気だ。神楽坂通りと平行して走る芸者新道や江戸時代を思わせる石畳の芸者小路。昔ながらの八百屋さんと銭湯、ポルノ劇場。和装に下駄で歩いてみたい。
全て聞いた話と雑誌で見たものだから、どうしても自分で見て自分で写真を撮って自分でスケッチしたくなる。
小旅にはもう一つ楽しみがある。新しい美味しいものを発見することだ。私は月島へ行き、新しい美味しいものを探したい。月島といえばやはりもんじゃだろう。もんじゃロードがあるほどだ。そして佃島の佃煮。昭和の風情が残るこの街で名物を食べるのももちろん良い。それから狭い路地へ入り手漕ぎの井戸がいくつも残る住宅街を歩き越中島公園から夜景を見る。ありきたりではあるが良いコースだ。だが、私は名物のもんじゃ、佃煮のほかに新しい名物を探したい。
こうしてスニーカーで街を歩いてみるとたくさん新しいものを見つけることができる。発見は喜びに繋がる。これこそが小旅の楽しさだと思う。綿密に計画を練った旅行もいいが、私は時間に揺られ流されるようなこたびに出たい。