「雑誌研究」の夏期課題の提出レポート 1

近況報告

「雑誌研究」の夏期課題の提出レポートを何篇か紹介します。

宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」の主人公の名前が「かねた一郎」とひらがな・漢字表記になっている理由について書きなさい。わたしの考えは指定テキスト「宮沢賢治・童話のエロス」の中で触れていますが、それを踏まえながら独自の考えをまとめてください。

 

山本美佳 (演劇学科3年)

 

  なぜ「かねた一郎」なのだろうと読んでいて、山猫たちは事前に一郎を知っていたから手紙を出せたわけですが「いちろう」と呼ばれているのも承知で、おそらく長男でしょうから山猫たちも「一郎」と予想できたけれど「かねた」はどの漢字が分からなくて書けなかったかもしれないと考えました。もしそうだとすると一方的に木や森と戯れ、夕暮れに一人で帰路につく一郎を見ている森の仲間という世界が大きく広がります。いちろう、と親や先生や級友に呼ばれているのを聞いたのか、それとも落とし物を拾ったときに名前を知ったのか、いずれにせよいつも近くにいたのです。

暗くなりつつある道を一人で歩く一郎という構図から、それをこっそりと見守っているのか、何かしらの理由で姿を見せることができないのか、それでも会ったことはないがお互いを知っている関係かもしれないと、名前の表記から想像しました。

「いとをかし」は素晴らしい、おもしろいという意味がありますが「をかし」なはがきに力を込めて「墨すみもがさがさして指につくくらい」の字で書かれた自分だけに送られた自分あての手紙に少年の嬉しさがうかがえます。

  そして、「かねた」が兼ねたではないかという考察は先生と一致していました。

何かを兼ねている、何を兼ねているのか考えてみると、前期のレポートにも同じようなことを書きましたが、ね床にもぐってからも眠らない一郎は、遠足に行く前日の子供なら「寝たいのに眠れない」ことがよくあるように思えまが、一郎は自分の意志で「眠らない子」なのです。一郎ははがきを見つけてからずっと明日のことや山ねこのことを考えているけれど家にはおそらく生活があり、食事の手伝いやお風呂を沸かしたりと邪魔がはいるような生活の中で一郎が自分自身のアイデンティティを保てるのは様々なしがらみから抜け出してね床にもぐった時だけだと推測できます。

 さらに他者と自己の間で社会性を学び世界と融合することを覚えますが、それに失敗しているこどもはしばしば自分の世界に閉じこもり自分だけが理解できる妄想や自然とのふれあいで世界とつながってゆくものです。薄暗い夕方、明かりもなく孤独感の増す夕暮れの中で山に囲まれた家へ一郎が背中をまるめてつまらなさそうに帰ってきたところにおかしなはがき、そしてそれは自分の名前がかかれた自分へ向けられたもので字がまるでへたなのをみるとどうやら畏まった大人でも級友の字でもないようだと察し、手に取ってみると墨もがさがさして指につくことからさっきまで手紙の筆者がここにいたという気配も感じられ、選ばれたことへの嬉しさがこみ上げます。このリアクションで承認欲求が満たされ、アイデンティティクライシスには自信の承認が必須なので「金田家の長男」という生まれ持った縛りから「一郎少年」になれたのです。

そしてそれが「かねた」という一族の中の「一郎」という個人がこれから裁判にかかわっていく、という表現だと感じました。

一郎は孤独な少年で、空想の中で生きてます。もし、社会性を持っていれば手紙が届くことも届いたものを飛んだり跳ねたりして喜ぶこともないのです。山猫たちが一郎を知っていたのもよく森で一人遊びをしていたのを知っていたからではないのでしょうか。彼にとってのアイデンティティは自分の中の世界を充実させることで「かねた家」の繁栄や学校に所属してることではなくあくまでも超個人的なことを大切にしている子です。

  また、宮沢賢治の作品には自分を主人公だと思っている主人公が多いように思えます。例えば注文の多い料理店では狩りを楽しんで動物を殺していた自分たちが今度は自分たちが殺されるとは思っておらず。黄色のとまとの兄弟はまさか自分たちのすばらしい金のトマトが投げつけられるとは思っていないです。人間は都合の良いように考えるものだという賢治の「驕り高ぶるなよ」というメッセージが見え隠れしていることから、一郎も裁判する側とされる側が兼ねられている存在でその意味を込めて「かねた」なのかもしれないと読みました。

  自力で読み取る場合、論じられているエロスの部分は正直よくわからないのですが、人間の本質的なところや愚かなところを突き詰めるとエロスであり神の領域へと侵入するような作品に自然となっていくように思えます。高校の時に戯曲創作の授業があったのですが、色々と作るのが難しいので関係性をふわっと書いていたら「人間をちゃんと描くときはエロスや動物的で本能的なところを書け」と怒られました。ほかのすぐれた作品や、先生の本を読むと必ずそのような表現が出てくるので一見かわいらしい童話でも注意が必要だということがよくわかりました。 

 

 

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ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ(2015/11/17)【清水正チャンネル】 - YouTube

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