中田敦彦のYouTube大学「罪と罰」に一言。

近況報告

7日は行きつけの医院に出かけ、薬をもらってきた。午後四時前、患者は診察中の一人のみ。すぐに診察を終え、50日分の薬をもらってきた。非常事態宣言もあって街にひとは少ない。大学は五月一日からオンライン授業を開始するという。年配の非常勤講師も多く、戸惑ったひとも少なくないだろう。学科研究室の助手や助教の援助なくしては成り立たないかもしれない。

新型コロナに関しては多くの異なった情報が入り乱れていて、わたしのように二十時間以上も動画を観ている者にとっては、逆に真実が見えてこない。ニーチェの言う「事実はなく解釈あるのみ」である。新型コロナをチャイナの生物兵器と見る解釈があれば、日本とアメリカが仕掛けたのだという解釈もある。どちらも自分の主張が正しいという立場にたって動画を発信している。新型コロナは風邪の一種で大げさに騒ぎ立てることはないという者があり、政府の非常事態宣言自体が後手後手で甘すぎるという者がいる。動画をほとんど観ずにテレビ、新聞だけで情報を得ている者たちは、多様な情報に混乱することもなく、政府の自粛要請に素直に従っているのかもしれない。それにしても今日の日本がこれほどチャイナの影響下にあったのかと驚く。田中角栄の日中国交回復にまで遡れば、少しは今日の政治・経済状況が浮き彫りになるかも。日本は天安門事件のチャイナと国交を回復し、親日国の台湾を切り捨てたことを決して忘れてはなるまい。それにしても現安倍政権を批判する保守陣営のまとまりのなさもどうしようもない。お互いに罵詈雑言を発したり、同じような政策を提示しながらまったく歩み寄ろうとする姿勢がない。まさにこういう状況下にあっては女子の力が存分に発揮されなければなるまい。

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これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。

ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ(2015/11/17)【清水正チャンネル】 - YouTube

 

先日、中田敦彦YouTube大学で「罪と罰」を取り上げていたのでさっそく観ることにした。中田氏の動画に関しては当ブログでも紹介しておいたが、とにかく人気のある評判のいい動画である。「罪と罰」動画は3月23日に公開され本日4月9日現在で視聴者数が75万を軽く突破している。この動画も中田氏のエンターティナーとしての才能を存分に発揮したものとなっている。ストーリイや人物たちを分かりやすく説明しているので、今までタイトルぐらいは知っていても読む機会のなかった者に読む気を起させることまちがいない。大長編小説を一時間で熱く語れるのはなかなかのものである。コメント欄を見ても好意的なものが多い。ところで、中田氏の語る「罪と罰」は原作と異なる箇所が少なからずある。彼は参考文献に「罪と罰 まんがで読破」を一冊のみあげている。日本で「罪と罰」を漫画化したマンガ家は手塚治虫をはじめとして汐見朝子、大島弓子岩下博美、峰岸ひろみ、落合尚之、漫F画太郎などがいる。それぞれ独自の解釈で再構築しているが、「まんがで読破」もまた大長編をコンパクトにまとめあげている。わたしはマンガ家たちの再構築をそれなりに楽しんで読んでいるが、手塚治虫のマンガ「罪と罰」に関していっさいの妥協なく1500枚を費やして批評した。興味のある方は「清水正ドストエフスキー論全集」第4巻と第5巻をお読みください。

中田氏の動画でまず気になったのは、彼は原作をどのテキストで読んだのかといった点であった。理由は「罪と罰」の重要人物の一人であるスヴィドリガイロフをスビドリガイノフと表記しまたそのように発音していたからである。「罪と罰」の愛読者でスヴィドリガイロフの名前を間違える者はいない。「まんがで読破」では「スビドリガイロフ」でヴィがビとなっているが、これはまあ間違いとは言えない。ドストエフスキーは名前一つに様々な象徴的意味を潜めた小説家であり、ささいな間違いとしてすますわけにはいかない。

もう一つ気になったのは、動画の最後のほうで「口伝えでしゃべった」と重ねて強調していたことである。「罪と罰」全編をすべて口伝えでしゃべることができたら、そりゃあ間違いなく大天才ということになろう。中田氏はこういった作家に関する情報をどこで得たのであろうか。わたしは最初聞き間違いかと思って繰り返し観たが、中田氏は確かに「罪と罰」全編が口伝えでしゃべったものと思い込んでいるらしい。ドストエフスキーが後に第二の妻となる速記者に口述したものをもとに書き上げたのは「賭博者」であって「罪と罰」ではない。詳しいことを知りたければアンナの日記や、ドストエフスキー研究家として定評のあるグロスマンの著作「ドストエフスキイ」北垣信行訳・筑摩書房を読めばいい。

それにしても中田氏の動画は百万単位の視聴者があり、わたしのブログの読者は百人そこそこである。わらうしかない差であるが、べつに気にもしていない。ついでに大川隆法氏の「ドストエフスキーの霊言」についても一言書いておこう。霊言とはおそれいった、おわらいにもならない。ドストエフスキーの霊魂と大川氏のそれになんの共通項も見いだせない。ドストエフスキーの大いなるディオニュソス的精神世界、イヴァン・カラマーゾフに体現されたわが魂の震えをもって神に抗議するヨブ的悲憤、人類の全苦悩の前にひれ伏すことのできる殺人者ラスコーリニコフの分裂と苦悶など、「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」に魂を慄かせた読者には、大川氏の霊言は全く異質のものを感じるだけである。