小林リズムの紙のむだづかい(連載449)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

清水正『世界文学の中のドラえもん』『日野日出志を読む』は電子書籍イーブックジャパンで読むことができます。ここをクリックしてください。http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

小林リズムの紙のむだづかい(連載449)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。


清水正の著作はここをクリックしてください。

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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。
小林リズムさんがエッセイ本をリンダパブリッシャーズ(http://lindapublishers.com/archives/publications/dokonidemoiru)から刊行することになりました。本のタイトルは『どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった八日で辞めた話』発売日四月五日。
http://lindapublishers.com/archives/publications/dokonidemoiru
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小林リズムの紙のむだづかい(連載449)




【女は哀しい】


  軽く飲んで帰った金曜日の終電間際。山手線から千代田線に乗り換える階段をおりていたら、危なっかしい足取りで歩いている女性を前のほうに見かけた。黒髪が肩甲骨あたりまで伸びていて、踵の傷ついたヒールはカンカンと金属がむき出しになったうるさい音を響かせて階段を叩いていた。酔っ払っているのは明白で、うっ…うっ…と一定的なリズムを刻んだ嗚咽をもらしているから、泣いているのも明らかだった。

 「金曜日の夜に泣きながら酔っ払って終電に乗り込もうとする女」のなかで、哀しくない人なんているだろうか。私は彼女のふらふらの足取りを後ろからみていてひやひやしたし、どうか転ばないでほしいと心の中で祈ってしまった。

 けれど、その女性はやっぱり転んだ。あまりにも投げやりな転び方だった。パンプスは転がって階下のほうに吹っ飛ぶし、バッグの中身も散らばった。転ぶべくして転んだというか、あえて転んだというか、彼女はもう歩きたくないみたいだった。だから「歩くのをやめた」といったほうが的確で、彼女は転んだ後に静止して階段に座りつくしていた。見ていてため息をつきたくなるような悲しい女性の姿がそこにあった。

 終電近くの階段は、みんな電車を逃すまいと混み合っていて、誰一人として女性の靴を拾ったり声をかけたりする人がいなかった。女性は無表情で、とろーんとした目つきで、放心状態のまま座りつくしている。周りの人は面倒くさそうに彼女を上手に避けて歩いたり、軽く舌打ちしたりしながら電車へと駆けていった。

 なぜだか私は女性のもとへ駆け寄って助けてあげる人が誰もいないことにすごく傷ついてしまった。どうしても見過ごせなかった。
「……あの、大丈夫ですか?」
 黒のパンプスを拾って女性の前にしゃがんで聞くと、彼女は私の顔をまじまじと見つめてきた。そして口を開いて「あなた、いい人ねえ」と呂律のまわらないしゃべり方でゆったりと言ってから、狂ったように笑いはじめた。あっひゃっひゃというような奇怪な笑い方で、目には涙が浮かんでいるから不気味だった。周りの人が「こいつ大丈夫かよ」という空気を含んだ好奇な視線を向けてくるのがわかった。

 雨が降っていたからか女性の髪の毛は軽く濡れていたし、メイクがよれていて老けてみえたけれど、たぶん私より三歳から四歳くらい年上だと思う。

 私はほかになんと声をかけたらいいのかわからずに、本当に大丈夫なんですか? と繰り返して声をかけると、彼女は「大丈夫ぅ」と言って両手をグーにして万歳をし、また、ひゃっひゃっひゃと声をあげて笑いながら泣いた。

 泣いているのに笑っている。テンションは高く、声も元気なぶん、身体と心がくっついていないみたいだった。その「全然大丈夫じゃない感」と、冷たく静止した絶望感を感じて、私は冷静に「あ、この人ってあたしだ」と思った。黒いパンプスに写った自分の顔を見ていたら、なんだかすごく悲しくなった。


   

 小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
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