小林リズムの紙のむだづかい(連載79)

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紙のむだづかい(連載79)
小林リズム

【ちょっとばかし、 後編】


 「深く息を吸って、それから吐いてください」
という言葉で誘導されていき、「ここはどこですか?」と聞かれたとき私はアジアっぽい貧しい国にいた。服も白い布だとかを巻き付けていて、髪の毛も肩につくくらいの黒髪ストレートだったのに、
「それでは、自分の家に入ってみてください」
と言われた途端、ドレッシーなワンピースを着て、食卓の机に頬杖をついているような女の子になっていた。髪の毛も黒だったはずなのに、ウェーブがかった金髪。家のなかは洋風で階段の手すりが金色だったりしたのだけど、訪ねてくる友人は貧しそうな子だったり一緒に住んでいるおじさんがアラビアっぽい顔の人だったりして、はじめのうちは国も家族構成も統一性がなくて矛盾だらけだった。

 でも、続けていると見えている映像がちょっとばかし濃くなってきて、ルビーという女の子の人生が少しずつ浮き彫りになってきた。おかしなことに、話しているうちに全然意味のないところで自分の意思とは関係なく涙が出てきたりして、感情移入をしてしまうのだった。
 ずっと自分の安全が保障される場所にいて、一生守られ続けてきて、何も知らずに何もわからず、生きる喜びも悲しみさえもわからないまま終わったらしい彼女。「ルビーさんはそのときどんな気持ちでしたか?」とセラピストに聞かれて、ひたすら「退屈」という言葉を繰り返していた彼女。彼女はいつも刺激を求めていたし、その一方で安全な場所を離れることは嫌だった。自分が絶対的に安全な場所にいる保障があることが前提で面白いものを求めたってうまくいくはずもなく、少しもリスクを背負わないルビーはいつも満たされなくて文句ばかりだった。

 さて、前世を見終わったあと、「前世の人物から今を生きる自分に向けてメッセージを受け取ってください」と言われるのだけど、このメッセージを聞いて、なんとなく腑に落ちたことがあった。私が、今を生きる意味。そして…

 そしてルビーは私にふたつのことを言いました。「外の世界は怖いけど、退屈よりはだいぶマシ」「失敗したらそのとき考えれば?」

…さて、これが私の無職になった所以でしょうか。