小林リズムの紙のむだづかい(連載80)

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紙のむだづかい(連載80)
小林リズム

【誰に似てるとか好きな曲とか聞こえないふりして「孤独」と打ち込む検索画面】

「失礼だよね。ああいうのって」
「人が目の前にいるんだから、そこは礼儀ってもんだよねぇ」
 最近の定番なマナー違反といえば、スマホいじりである。一緒に会話をしているときや、食事をしているとき、そこに人がいるのにスマホをいじるという不評行為。スマホいじり批判はよくされているし、もっともだと思う。相手に失礼だし、アンタ今日なんでここに来たの?と思われても仕方ない。
 …という優等生な発言は置いておこう。私にとって飲み会でのスマホいじりは、小さな自己主張。周りが盛り上がっているけれどついていけないとき、ひとりだけ取り残されたようなポジションになってしまったときに使う「私、ここでは乗れてないけど、本当は友達たくさんいるんだからねっ!あー、次々に連絡きてたいへんっ!」というささやかなアピールなのだ。忙しそうにメールを打っているふりをしたり、電話の着信がこないかと願ったり、そんな悲しい見栄を張る小道具としてスマホは役立ってくれる。

 でもそんなことばかりしているとスマホいじりが仇となり、ますます周りの子たちとの間に壁ができてしまう。そもそも黙々とひとりの世界に入り込んで画面をにらんでいる子をどう扱っていいのかに困るし、かまってもらいたいのをうまく伝えられない自意識のこじらせかたが面倒だし、そんな厄介なのを飲みの席まで持ち込まないでくれよ…と思われるのがオチだと気づいた。それどころか実際は「あぁ、会話に乗れないから頑張ってスマホアピールしてるのね」とバレていて、友達たくさんいますアピールになんてちっともなっていないのだった。

 無言でスマホをいじるという行為が逆効果になるのだとわかってからは戦法を変えた。だいたいの人が使っている「ただひたすら微笑みながら相槌を打つ」という方法だ。何に笑っているのか、何に突っ込んでいるのか、話題に出てくる芸能人を知らなくても、変なキャラだと言われる友人を知らなくても、むしろ何の話をしているのかさえわからなくても、とりあえず笑っとけ!という投げやり手法。あまりの退屈さに口角がぴくぴくしても、なにがすごいのかわからなくてもリアクションし続ける…というのは、結構しんどい。もっと良い感じの時間の過ごし方があればいいのに…。

 そんなふうに紆余曲折を経てたどり着いた究極の戦法がある。それは「ナチュラルにひたすら遠くを見てぼうっとする」というやり方である。これは、自分をアンニュイに見せる効果もある(と思う)し、何を考えているのかわからない、そのもどかしさが相手の「知りたい!」という気持ちをくすぐり恋に発展する効果もある(と期待している)。
 え?このアンニュイ戦法で得た収穫?それは…ないけど。でも、これからあるはずだし、ていうか絶対あるし、たぶん、いや、ぜったい…と思っていたら「さっきからどこ見てんの?」と突っ込まれて「いやぁ、ちょっと遠くを…」としか答えられない自分が、たいへん不甲斐ないのだった。