小林リズムの紙のむだづかい(連載5)

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紙のむだづかい(連載5)
小林リズム

◆ハイスクールラブ

 十七歳の頃、教室で前の席に座っている男の子が好きだった。天然パーマがうねっていて、周りからよくいじられていた彼は、うちみたいな馬鹿高校から上のレベルの大学を目指す期待の星だった。彼の大きなスポーツバッグからこっそりと覗いた、綿谷りさの芥川受賞作をみたときから彼のことが気になっていたのだ。でも、完璧に恋に落ちたのは授業中だった。
 賢くないけれどグレるほど目立った人もいない学校だったので、みんな授業中は寝ていたり、うとうとしてたりしている人が多かった。
 その日も相変わらず穏やかで早く授業が終わってほしい、お弁当を食べたい、そして家に帰りたいと思っていた。当時、真剣に転校をも考えていた私は机の端にいくつも書きならべた英単語を眺めながら、苛々していた。そんなときに音がした。
 ブッ……ブッ…ブッ…
 聞こえてきたのは前の席からだった。そっと顔をあげて前の席に座る彼を見ると、船をこいで寝ている。…聞き間違いだったのかもしれない。と思った矢先、また聞こえた。
 ブッ…ブッ…
 今度は確実だった。そして間違いなく目の前の席の彼だった。イモでも食べている夢を見ているのだろうか。彼は寝ながらオナラをしていたのだった。人が学校で堂々とオナラをしているのを見る(聞く)のは初めてだったし、まして本人が気づいていないという状態に遭遇したのも初めてで、私の胸は高鳴った。なんていうか、このうえなく刺激的だった。臭いはせず、ただ音だけが聞こえる。みんな彼のオナラを首をかしげ、耳をそばだてて聞いている。この控えめでいて圧倒的な迫力。退屈な日常に大きな風穴を開けてくれた彼のオナラは、まわりめぐって私のハートにも台風を吹かせたのだった。
 それから時を経て私は二十一歳になった。就職どうしようかなぁ、やっぱり健全に正社員になっとくべきかなぁ。今の編プロで正社員になれる気がしないし…。そんなときふと思い出してオナラの彼の名前をグーグルで検索すると、何かの小説の書評を書いて受賞したということを知った。それがもう、べらぼうに良い文章だった。悔しいという域を越えて、彼には追いつけないし敵わないよなぁとつくづく思った。彼は高校の頃からいつも私の前にいる。そしてマヒしかけるたび、私の心に新しい風を吹かすのだ。