随想 空即空(連載114)内村鑑三の不敬事件を巡って

清水正の著作、D文学研究会発行の著作に関する問い合わせは下記のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

sites.google.com

 

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

 

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

                清水正・画

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 #ドストエフスキー清水正ブログ# 

 

有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

随想 空即空(連載114)内村鑑三の不敬事件を巡って#ドストエフスキー清水正ブログ#

清水正

 

 植村正久は「不敬罪キリスト教」(『福音週報』第五十号、明治二十四年二月二十日)において次のように書いている。

 

  今日はネロの時にあらず、またテオクリシアンの代にあらず。ゆえにキリスト教徒は幸いにして迫害に遭うの恐れなきことを得。これ神の恩恵、昭代の賜というべし。しかれども、時としては、社交上政治上において、吾人の良心を試煉するの出来事起こらざるにあらず。刀鋸鼎钁の鍛錬は幸いにして、今のクリスチャンの免るるところなれど、紛々たる世上の俗論、道理もなき恐嚇、毀誉褒貶、専制の王として最も畏るべき習慣等に対して、常に敏捷なる良心を維持し、分釐も神の聖旨に違わざらんことを勉め、断然濁世の習わしに反対するは、キリスト教徒の本色にして、今もなおローマ帝国の時代と異なるものなきなり。

  先日高等中学校において、内村鑑三氏らが勅語に対して低頭稽首して拝をなさざりしとて、一場の紛議を生じたることは、読者の記憶せらるるところならん。吾人は今上陛下を尊敬す。陛下に対して、敬礼を表せずんばあらず。その尊影に対し、勅語に対し、同一の精神に基づける敬礼をなしたればとて、その智愚、得失は暫く置き、これをもって、偶像を拝するなり、十戒に背戻することなりとは容易に断言すること能わざるなり。しかれども、この事たるや、単独の問題として論ずべきものにあらず。その連帯するころ極めて広く、その関係甚だ重大なるものあり。キリスト教徒は賢所において、参拝するも不可なりや。キリストを信ずる海陸の将校士官兵卒は、靖国神社において、神官の司る祭典に列なり、これに列なるのみならず、また拝を遂げ、祭文を読み、百事キリスト教を信ぜざるものと共に、その祭りに与ることを得るや。これらの問題は彼の内村氏らの事件と多少の関係を有するものにて、キリスト教徒の明らかに決定するを必要とするものなり。

  吾人は新教徒として、万王の王なるキリストの肖像にすら礼拝することを好まず。何故に人類の影像を拝すべきの道理ありや。吾人は上帝の啓示せる聖書に対して、低頭礼拝することを不可とす、またこれを屑とせず。何故に今上陛下の勅語にのみ拝礼をなすべきや。人間の儀礼には、道理の判然せざるもの少なからずといえども、吾人は今日の小学中学等において、行なわるる影像の敬礼、勅語の拝礼をもって、ほとんど児戯に類することなりといわずんばあらず。憲法にも見えず、法律にも見えず、教育令にも見えず、ただ当局者の痴愚なる、頭脳の妄想より起こりて、陛下を敬するの意を誤り、教育の精神を害し、その間に多少の紛議を生ずべき習慣を造り出し、明治の昭代に不動明王の神符、水天宮の影像を珍重すると同一なる悪弊を養成せんとす。吾人はあえて宗教の点よりこれを非難せず、皇上に忠良なる日本国民として、文明的の教育を賛成する一人として、人類の尊貴を維持せんと欲する一丈夫として、かかる弊害を駁撃せざるを得ず、これを駁撃するのみならず、中学校より、また小学校より、これらの習俗を一掃するは国民の義務なりと信ずるなり、内村氏がその初め勅語を礼拝せざりしは、宗教の点において疑うところありしか、或いは吾人と同一の考えを抱きたるがため、礼拝をなすに躊躇したるものか、いずれにもせよ、吾人はその心術の高明なりしに感服せずんばあらざるなり。これと同時に氏らがその後に至りて、俄然これを礼拝し、金森、横井諸氏がこれを賛成したりと聞きて、深くその挙動を怪しまざるを得ず。

 第一高等中学校は、内村氏が志を改めて、勅語を礼拝せるにもかかわらいず、氏に勧告して辞表を差し出さしめたりと聞く。勅語の礼拝は、いかなる法律、いかなる教育令によりて定められたることなるや。事の大小こそ異なれ、運動会等の申合せと毫も異なることなく、全く校長その他自余の人々の頭脳より勝手に案出せるものに過ぎざるなり。これがために教授の職を解くに至る。吾人はその理由を知るに苦しまざるを得ず。

  勅語の拝読を慎むは、権威を重んずるの趣意に出しことならん。学校の秩序を保ち、慎重従順の風を養成するの結構ならん。その策の得失は、吾人これを論ぜず。しかれども、この一事に重みを置き、これがために一人の教諭を免ずるに至るほどに熱心なる学校は、何故に生徒のモッブ然たるを不問に置くや、何故に壮士的の運動を擅にせしめたるや、何故に秩序を紊るの行を容赦するや、何故に生徒を恐れ、生徒の意を迎うるに汲々たるや。吾人は当局者のためにすこぶるこれを惜しまざるを得ず、その自家撞着の甚だしきに驚かざるを得ざるなり。(『植村正久著作集』第一巻 289~291)

 

 植村正久は正宗白鳥に洗礼を授けた牧師である。内村鑑三の不敬事件に関しては様々な人たちが意見を述べている。先に記したように小沢三郎が『内村鑑三と不敬事件』で十全な実証的研究を刊行している。おそらく、この著作を越えるものは今後とも出てこないだろう。当時の新聞や雑誌に載った記事など小沢は実に丹念に当たっている。一読すれば、不敬事件を巡る世論の動向を一望することができる。今回、植村正久の見解をとりあげたのは、彼の見解が実に的確に不敬事件の本質を突いていると思えたからにほかならない。内村鑑三研究は盛んだが、それに比すれば植村正久研究は影が薄い。現にわたしなどは今回はじめて植村正久の書いたものを読むことになった。正宗白鳥内村鑑三の演説に魂を魅了されたことなど折に触れて書いているので、植村正久の印象はますます薄くなる。しかしここに引用したものを読めば、植村正久が論ずる対象に対して実に客観的、冷静な眼差しを注いでいるかが明白である

    わたしは一読してほとんどのことを尤もと納得したが、しかし同時にどうしても理解できないこともあった。天皇か神かという究極の二者択一の問題がすっぽり抜けている。内村鑑三の場合も同じであったが、天皇が現人神としてたち現れてくれば、キリスト教徒は現人神を拒んで自らが信じる唯一神を選ぶほかはないだろう。しかし内村鑑三勅語を前にして礼拝を躊躇した。この躊躇という曖昧さの中に逃げ込んだと言ってもいい。内村鑑三が文字通りのキリスト教徒であれば、躊躇ではなく、きっぱりと礼拝を拒否しなければならなかったはずである。内村鑑三は二つのJが成立可能だと思っていたようだが、そんな中途半端な姿勢はキリスト教では許されないのである。みっともないのは、一度あいまいな態度を取ったにもかかわらず、非難されて後に、代理人によって礼拝を受け入れていることである。礼拝を断固として拒む姿勢を一貫していれば、キリスト教徒の側からも熱烈に支持されただろうし、反対側の者たちにも一種の感動を与えただろう。日本人の大半は曖昧な領域を無自覚のうちに生きているが、時に流行病に罹患したかのような熱狂的一義に身を委ねることがある。礼拝式で内村鑑三の曖昧な態度を目撃していた第一高等中学校の学生の反撥憤怒はその一例である。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

www.youtube.com

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 

エデンの南 清水正コーナー

plaza.rakuten.co.jp

動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

お勧め動画池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェ永劫回帰アポロンディオニュソスベルグソンの時間論などを踏まえながら

人間のあるべき姿を検証する。人道主義ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

www.youtube.com

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。