清水正の『悪霊』論 坂下将人 連載5

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     清水正ドストエフスキー「悪霊」の世界』(Д文学研究会 1990年7月 限定100部非売品)


連載5

清水正の『悪霊』論

坂下将人

清水正ドストエフスキー『悪霊』の世界』(Д文学研究会) (1990)

 本書には「通常版」と「私家版」の二種類が存在する。以下、「私家版」(限定百部)の内容について論及する。「私家版」は「通常版」に先行して「七月」に「Д文学研究会」から刊行され、「通常版」は「九月」に「鳥影社」から刊行されている。「通常版」=「鳥影社版」であり、「私家版」=「Д文学研究会版」である。

 「通常版」と「私家版」は「同一内容」であるが、「通常版」と「私家版」とでは「後書き」において行われている考察が異なる。「通常版」の「後書き」では『悪霊』が主に宮沢賢治の著作である『銀河鉄道の夜』との関連において論じられている。一方、「私家版」の「後書き」では引き続き『悪霊』を成立させる上で不可欠な存在である「ワルワーラ」に対する考察が中心になされている。

 「私家版」の「後書き」において清水は「父」であるステパンが「ウスチエヴォ」をこえて「スパーソフ」へと辿り着き、「キリスト」の足元に座る存在となれば、「「ウロボロス」的大地」である「スクヴォレーシニキ」の支配者であるワルワーラは瞬時にして「聖母マリヤ」へと変容すると考察している。また続けて、清水は『悪霊』の描かれざる第二幕(続編)は「子」である「ピョートル」と「イエス・キリスト」の「対決」によって開始されなければならず、「イエス・キリスト」が「ピョートル」の眼前に出現しなければ、『悪霊』は依然として「「悪霊」の勝利」であり続けると指摘している。

鳥影社版

Д文学研究会版

坂下将人(プロフィール)

日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了。ドストエフスキー研究家。日大芸術学部文芸学科非常勤講師。論文・エッセイに「『悪霊』における「豆」」(「江古田文学」107号)、「ф・м・ドストエフスキー研究の泰斗」(「ドストエフスキー曼陀羅」特別号)、「清水正著『ウラ読みドストエフスキー』を読む」(『ドストエフスキー曼陀羅』)、「ф・м・ドストエフスキー『悪霊』──「鳩」に関する一考察」(「藝文攷」27号)、「ф・м・ドストエフスキー『悪霊』──先行研究一」(「清水正研究」2号)その他。