清水正ゼミ課題レポートより「『罪と罰』における死と復活のドラマ」を観た感想

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

清水正ゼミ課題レポートより
動画・清水正チャンネル「『罪と罰』における死と復活のドラマ」を観た感想

霞由利菜


 暗い一室のなかで、一つの灯り火を挟んで二人の人間がそこにいる。印象的なシーンである。しかし、売婦であるソーニャの瞳には、イエス・キリストが見えているという。たしかにその部屋には、二人の人間と、もう一つ別の存在があったのだろう。わたしは、このイエス・キリストは、ソーニャだけのイエス・キリストだと思った。彼女だけに見えている。彼女は、見える人である。それはソーニャの悲壮な生き方、今この現状があってこそ見えるのかもしれない。なぜ神は助けてはくれないのか。なぜその姿を現してはくれないのか。そんな想いが、湧き起こらないでもないだろう。しかし、ソーニャは信仰を手放さない。それはあたまで思考を通して考えた結果ではなく、心にその概念が埋め込まれているのかもしれにない。ソーニャがちらりと目を上げかけた、その時ソーニャが目を向けようとしたのは、たしかにその対象は向こう側に座る男ではなく、イエス・キリストだったのだろう。ここで目を上げ切らないところが、ソーニャらしいと思った。ソーニャは自分の身の程をわきまえて、目を伏せたのだろうか。自分にはそれがふさわしくないと感じたのかもしれない。見えないものが見えている彼女に見えていたのは、イエス・キリストだけではなく、部屋の暗闇、流れる空気の深さ、自分らがいかに可哀そうな存在であるのかも、見えていたのではないだろうか。ソーニャだけが自覚しているあの部屋の状態は、彼女のために、彼女自身が生み出した幻想が混じった空間だったように感じられた。ソーニャがどこか自分に「罪」や「罰」を感じている中で、目の前の男や、ラスコーリニコフは果たしてどうなのだろうか。ラスコーリニコフに関しては、人を殺しておきながら、罪の意識を持っていない。それが正しいこと、するべくしてしたのだという自負がとても強いのだ。彼にイエス・キリストはどのようにうつるのだろうか。ソーニャにしろ、ラスコーリニコフにしろ、それぞれが自分の世界を持っていて、そこで生きている。だから、自分や自分の持つその世界の真髄を見たいのなら、その世界からいったん飛び出してみなくてはならない。中にいたら、中の様子は見られない。見ることができても、それは絶対に、本来のすがたとは違っているはずだ。外に出て、振り返って、見て、そこで初めて分かるのではないだろうか。ラスコーリニコフは若く、まだ青く、だからこそ突飛な考えを持ち、それをもとに行動にまでそれを結び付けていくことができるのだろう。そのラスコーリニコフの、その青い熱は、ソーニャや周囲の人間の目にはどううつるのだろうか。ラスコーリニコフの見解は独特で、それこそ自身の世界を脱しなければ、全貌を垣間見ることは難しいだろう。それに対してソーニャは、自分を客観的に見ることができているのだろうと思う。それはたいへんなことかもしれない。世間一般的に見て、ソーニャのお金の稼ぎ方は良いようには思われない。恥であり、同情や悲哀のまなざしを向けられるものだ。それを理解し、受け入れていくのはつらいことではないだろうか。しかし、受け入れなければ、それを続けることに耐えられないはずだ。受け入れているからこそソーニャは自分の中で、自分の大切な部分を清算し、線切りを付けたのだろうと思う。イエス・キリストは今ここにいらっしゃって、わたしにはそれが見える。見えるほどに、見えるけれど目が合わせられないほどに強く信じている。ソーニャの形成している世界は力強いものであり、それはソーニャの生きる強さそのものではないだろうか。時代の波にのまれれば、「ふつう」というものさえ分からなくなることもある。それは自分の中に世界がなく、持論を持たないからそうなるのだ。自己評価を他人に求めず、いかに生きるかを考えるべきなのである。その、いかに生きるかということに、自分の存在意義や理由を求めず、自分の価値を考えたときに、自分を商品のように考えてはいけないのだろうと思う。自我を保つことが、生きるということなのだろう。「罪と罰」で、どのキャラクターも生きているように感じられるのは、それぞれが確立された自我を持っているからだろうと思った。


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京都造形芸術大学マンガ学科特別講義(2012年6月24日公開)
ドラえもん」とつげ義春の「チーコ」を講義

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