小林リズムの紙のむだづかい(連載105)

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紙のむだづかい(連載105)
小林リズム

【お父さんだってクリックしたい】


 今この瞬間、この世界のどこかで検索画面にエロいワードを打ち込んでググッている人がいる、と思うとなんだか人類の壮大さを感じるというか、ホント人間ってすごいよなぁと思う。
 「え〜、わたしそういうのこわ〜い」とか「あたしそういうの知らな〜い」ってカマトトぶる子ほど、何食わぬ顔でサーチをかけていたり、知恵袋で彼とのなんちゃらについての質問していたり、怪しいタイトルのメールを開いたり、大人系サイトの広告リンクに飛んだりしているのだ。そりゃそうだ。好奇心は簡単に抑え込めない。人間だもの。何も知らないような顔して、真面目な顔して生きていることのすごさに、ひとりで勝手におののいている。

 そのことに気づいたのは思春期の頃だった。あれは夜中の2時とかで、高校生だった私はトイレに行きたくなって目が覚めて、むくっと起きて家の階段を下りて行った。リビングにはお父さんがいて、パソコンをやっていたのだけれど、なんだかいつも様子が違った。私の気配を察知した途端、見ていたパソコンの画面をこれでもかという速さでスクロールしまくっていたのだ。マウスの真ん中部分のころころしたローラーをしゃっしゃっとまわす音がやけに耳に残る。
 女の勘は鋭い、とはいうけれど、本当にそういう第六感みたいなものってあるのだ。私は瞬時に「あ、お父さん、怪しいサイトみてるな」というのがわかってしまった。いつもだったら「トイレいきたい」とか「喉かわいた」といちいち報告していくのだけれど、その日は不自然に黙って父の後ろを通過したのだった。私は年頃だったし「うわ、お父さん…」と思わないこともなかったけれど、それ以上に見るならバレないようにしてくれ、という思いのほうが強かった。

 それ以来、夜中にリビングへ向かうときはあえて足音をならして、「今からそっちの方向に行くからね」と主張するようになった。お父さんが怪しいサイトを「見ていなかった」ことにするためのタイムラグをつくるために。慌てて画面をスクロールしまくる、なんていう情けない姿を見ないようにするために。なんと優しい娘なのでしょう。

 そんなふうにして、父の行いをなかったことにしようと必死に振る舞っていたのだけれど、やっぱり母には敵わない。
「あなた、なんでいつも履歴をきれいに消すの?」
と娘のいる前でストレートに聞いていたので父は慌てていた。母がそうやって聞くのはもう確信犯で、知っていて聞くのだから世話がない。
「変なサイトでも見てるんでしょ?ねえ、そうでしょ?やだわー」
と拷問に近い様子で言っていて、父はひれ伏していたのだった。

 全国のお父さん方は、今日も夜にこっそり家族にバレないようにして怪しいサイトを覗いているのかしら。妻や子どもがやってくることにびくびくしながら、ちょっと聞き耳を立てて。そう思うと、お父さんという立場にいる人が一様にかわいらしく思えるのだった。


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