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紙のむだづかい(連載19)
小林リズム
◆思いがけない毛の在り処
おじいちゃんにインスタントラーメンを作っていたら、その麺の良い感じにちぢれた曲線を前にふと思い出したことがあった。あれは確か、バラエティ番組を見ながら実家の母と電話していたときのことだ。母が「ねぇ、陰毛って思いがけない場所に落ちてると思わない?」と、すごくどうでもいいことを言ってきたのだった。
母の話によると、父が会社の会議でみんなに新しく届いた商品サンプルを提示しようとしたときに、サンプルの本の間に陰毛が挟まっていたそうだ。会議中に、わずか1グラムにも満たない毛にみんなが注目し、緊張の糸が張ったという。陰毛はすごくナイーブな部分に生えているのに、落ちていたり挟まっていたりすると羞恥心のかけらもなく、存在感たっぷりにアピールしているからすごい。"パーマをかけた髪の毛かな?"なんてごまかせず、言い逃れができないくらいに陰毛なのだ。父は気まずさのあまり、挟まった陰毛を手で振り払ったという。「それでね!その床に落ちた陰毛を、お父さんの隣に座っていたMさんが"会社にこんなものが…"って呟きながら、拾ってゴミ箱に捨てたんだって!」会議を黙らす威力のある陰毛に、みんな振り回されっぱなしだ。
考えてみると、友達の家で鍋パーティーでちらっと陰毛が落ちているのを発見したこととか、大学の床に数本落ちてるのはどうしてなんだろうと頭を悩ませたことはわずかながらあった。そして私はこの話をおじいちゃんにしてみたのだ。「そんな下品な話しするもんじゃない」とか「またくだらないことを…」なんて一蹴されると思ったのだけど、ちぢれ麺をすすりながら返ってきたのは予想外の言葉だった。「…陰毛?あれはチンチロ毛って言うんだよ」と、とてつもなく冷静に教えてくれた。チンチロ毛って…あまりにも的確というか、露骨すぎな感じが…。陰毛と呼ぶほうが品格を感じられる気がするのだけれど。さらに「昔、手術でスイス人の陰毛を見てびっくりしたよ…」と言うではないですか。やっぱりおじいちゃんは年齢を重ねたぶん経験も重ね、それは陰毛の世界においても当てはまり、いろいろと私の知らない世界を見てきたのだなぁと、久しぶりに祖父を尊敬したのだった。